裸眼で視力は0.02、会議で集中力は20分しか継続せず、
年に3回は車をぶつけて破損し、酒による失敗は笑えない。
それでもボクにできることはある、とボクが思っている。
ボクに必要なことはボクが判断し、助けも自分で求める。
何か役割を与えてあげようと思ってくれなくても、大丈夫。
家族は、他人と家族に対する態度の格差に驚き、
時には苛立ちすら感じると話した。
自宅では横柄な態度で、何もやろうとせずに過ごすと言う。
自宅や通所で他人に対して礼儀正しく、話題が豊富で、
謙虚で優しく笑顔が絶えない彼女の話を耳にすると、
なぜ自分には少しも配慮がないのかと悲しくなる、と言う。
洋服たたみをやらようとしても拒み、テレビをぼんやり眺める。
計算ドリルをやらせようとしても無視をして、うたた寝をする。
食事の時にしっかり両手を使うように注意をすると、怒り出す。
たっぷり1時間ほどボクは黙って話を聴き、
ケアマネと相談員が言葉に詰まっている側でじっと座っていた。
同じ話題が繰り返し出てきた頃、ボクはiPadを取り出した。
「彼女は95枚のイラストの中から、手工芸をやりたいと言いました。
昔、障がい者施設で手工芸を教えていたんですね」
「手工芸はボランティアの手段だったようですが、
趣味としても好んでやっていたそうですね」
「家族との関係も大切にしたいと思っているそうです。
買い物や外出がこれから先もできるようにしたいと話してました」
「何かを忘れてしまった場合、驚きと悲しみで混乱しているかもしれません
忘れたことを包み隠そうとして、別のエピソードを作るかもしれません」
「通所や外出先では、相手を気遣って言葉も選んでいるようです。
家族には本音の言葉がつい、出てしまうのかもしれません」
「他人に対して、なりたい自分となって振る舞うということは、
社会性と問題解決能力が保たれている、と私は判断しました。
しかしそれは精一杯の努力が必要で、心も頭も疲れきっているでしょう」
「家で休むことは、彼女に無理な負担をさせないという意味で、
必要なことかもしれません。彼女自身もそれを知っているかもしれません。
家族を困らせようと思って選択した言動では、ないと思います」
「記憶力の低下を取り戻すのは、難しいかもしれません。
でも、彼女が守ろうとしている彼女らしさは、支援できると思います。
彼女にとって思い出のある手工芸を通して、守れると思います」
「自分で判断して参加を選択し、やり方を相談したり工夫し、
それが社会貢献と趣味を満たす意味があると感じること、
これは頭と心と身体のリハビリテーションにもなるでしょう」
「この動画をごらんください。
彼女がホースを持って歩きながら必要な場所に水をあげています。
これはバスタオルを畳んでいる場面、これは手工芸の場面です」
「家族にとって介護が難しいこと、不安なことは教えてください。
必要があって回復できる見込みがあれば、訓練や練習をします。
自宅で彼女が休んでいたら、頑張ったんだと思ってください」
「私たちチームとご家族で力を合わせて、彼女を支援しましょう。
私は、作業療法士です。
歩行訓練とホットパックよりも、このような作業療法が得意です」
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