2012/06/02

認知症高齢者の作業と家族

握力は28kg、BMIは27、50m小走りすると息切れ、
裸眼で視力は0.02、会議で集中力は20分しか継続せず、
年に3回は車をぶつけて破損し、酒による失敗は笑えない。

それでもボクにできることはある、とボクが思っている。
ボクに必要なことはボクが判断し、助けも自分で求める。
何か役割を与えてあげようと思ってくれなくても、大丈夫。






家族は、他人と家族に対する態度の格差に驚き、
時には苛立ちすら感じると話した。
自宅では横柄な態度で、何もやろうとせずに過ごすと言う。

自宅や通所で他人に対して礼儀正しく、話題が豊富で、
謙虚で優しく笑顔が絶えない彼女の話を耳にすると、
なぜ自分には少しも配慮がないのかと悲しくなる、と言う。

洋服たたみをやらようとしても拒み、テレビをぼんやり眺める。
計算ドリルをやらせようとしても無視をして、うたた寝をする。
食事の時にしっかり両手を使うように注意をすると、怒り出す。

たっぷり1時間ほどボクは黙って話を聴き、
ケアマネと相談員が言葉に詰まっている側でじっと座っていた。
同じ話題が繰り返し出てきた頃、ボクはiPadを取り出した。



「彼女は95枚のイラストの中から、手工芸をやりたいと言いました。
昔、障がい者施設で手工芸を教えていたんですね」

「手工芸はボランティアの手段だったようですが、
趣味としても好んでやっていたそうですね」

「家族との関係も大切にしたいと思っているそうです。
買い物や外出がこれから先もできるようにしたいと話してました」







「何かを忘れてしまった場合、驚きと悲しみで混乱しているかもしれません
忘れたことを包み隠そうとして、別のエピソードを作るかもしれません」

「通所や外出先では、相手を気遣って言葉も選んでいるようです。
家族には本音の言葉がつい、出てしまうのかもしれません」



「他人に対して、なりたい自分となって振る舞うということは、
社会性と問題解決能力が保たれている、と私は判断しました。
しかしそれは精一杯の努力が必要で、心も頭も疲れきっているでしょう」

「家で休むことは、彼女に無理な負担をさせないという意味で、
必要なことかもしれません。彼女自身もそれを知っているかもしれません。
家族を困らせようと思って選択した言動では、ないと思います」






「記憶力の低下を取り戻すのは、難しいかもしれません。
でも、彼女が守ろうとしている彼女らしさは、支援できると思います。
彼女にとって思い出のある手工芸を通して、守れると思います」

「自分で判断して参加を選択し、やり方を相談したり工夫し、
それが社会貢献と趣味を満たす意味があると感じること、
これは頭と心と身体のリハビリテーションにもなるでしょう」

「この動画をごらんください。
彼女がホースを持って歩きながら必要な場所に水をあげています。
これはバスタオルを畳んでいる場面、これは手工芸の場面です」

「家族にとって介護が難しいこと、不安なことは教えてください。
必要があって回復できる見込みがあれば、訓練や練習をします。
自宅で彼女が休んでいたら、頑張ったんだと思ってください」



「私たちチームとご家族で力を合わせて、彼女を支援しましょう。
私は、作業療法士です。
歩行訓練とホットパックよりも、このような作業療法が得意です」

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