ゴールデン・エイジとは古き良き時代.
ゴールデン・エイジングという言葉があってもいいよね.
回復期リハ病棟に6ヶ月入院後,通所を利用して1ヶ月が経過していた.
彼は胃瘻から栄養剤を摂取し,ADLは全介助で要介護5だった.
言葉を聞いたことがなかったので,話せないだろうと思っていた.
ADOCを使って作業療法の目標を一緒に決めることにした.
食事のイラストを指差して,「食べれるようになりたい」と彼は話した.
「毎食,口から食べれなくもいい.
夕ご飯の時だけは,家族と同じご飯が食べたいんだ」と泣きながら話した.
泣き終わるのを待って,作業療法士としての意見を伝えた.
事前にカルテを読みました.医師はムリだと書いてありました.
その根拠は,病院のリハスタッフの評価でした.
でも詳しく書いてありませんでした.
楽しみ程度の少しの食べ物もあげてはいけせん,と書かれていました.
検査の時に,どれくらいムセましたか?
「はじめに少しムセたかもしれない.口に水を入れたのは1回だけだった.
ボクはね,納得していない.7ヶ月前からずっと納得していない.
お腹に管を入れたことは,理解できないとずっと思っていた」
話しながら滑舌と会話内容を観察していますが,唾液を飲み込みましたね.
飲み込みが可能か判断するために水飲みテストを,今すぐ実施しましょう.
課題があれば,どこに,どんな課題が,どれほどあるか意見を伝えます.
家族と夕ご飯が食べれることを目標にするか,その時に一緒に判断します.
・・・問題ありませんでしたね.それではリハ目標にしましょう.
いま,看護師と相談員と介護士に立ち会ってもらいましたので,
これからリハビリテーションの目標にすることを説明して,同意を得ました.
しばらくは嚥下評価としてゼリーを食べることから始めましょう.
1ヶ月後に再評価をして,問題がなければ普通食に移行しましょう.
ただし,医師とケアマネと家族の同意を得る必要があります.
私たちからも依頼しますが,あなたも彼らに意思を伝えてください.
専門職と家族の同意をどうやれば得れるのか,一緒に考えましょう.
1ヶ月後
ケアマネさん,娘さん,今日は忙しいところを,ありがとうございます.
まず始めに伝えておきたいことがあります.
これはADOCという作業療法評価とリハ計画書です.
彼は家族と夕ご飯を食べていた頃を,とても大事にしていました.
ずっと言えなかったそうですが,あきらめていなかったそうです.
今から初めて普通食を食べる場面に立ち会ってもらいますが,
これは嚥下の評価でも食べる能力の評価でもありません.
家族と一緒に夕ご飯を食べる生活が,将来的に可能か一緒に考える機会です.
この彼の希望を忘れずに,参加してください.
ムセずに食べることができたら,介助方法について教えます.
料理法,食器,望ましい姿勢,観察するべき点,介助のタイミング,
予測される危険な状態と対処法,段階づけなどについて説明します.
栄養士,看護師,相談員,介護士と一緒に説明します.
でも,どうやるか,何をやるかよりも,意味を知って欲しいのです.
ゴールデンタイムのテレビを観ながら,
家族で一緒に,家族と同じご飯を食べる生活を送るためです.
彼が伝えた,食事を食べることの意味と目的を,共有しましょう.
すべてはこのADOC計画書に書いてあります.
今,彼は歩行器を使えば少しの介助で,歩いてトイレに行けます.
シャツも自分で着けることができます.
日々,ここで介護士と看護師がそうなるように支援しているからです.
これらも彼の希望でした.その理由はすべて,家族のためでした.
食事を口から食べること,と同じ意味でした.
彼は慎重に咀嚼して,飲み込んだ.後半は自らの手で食べた.
その様子を見た家族が尋ねた.
「家族と同じご飯を食べるなら,調理の時に注意することは何ですか」
その瞬間,彼は言葉をつまらせて,
号泣した.
彼に見えたゴールデン・ディナーな日々がボクにも見えた.
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