2012/12/05

意志の言葉

ボクがなぜあなたを呼び出したのか,
わかりますか.

「娘は親の私に向かって,
あんな言葉を使ったのよ.
しかも手も出したのよ,私は車いすに乗っているのに」

娘さんがそうならざる得なかった,
理由はなんだと思っていますか.

「私があんたとかに手を出したと言うんでしょ.
でもね,私にだって言い分があるのよ」

ボクはその言い分を聴きたいんですよ.


「私が人にお願いする時はね,
ほんとうに身体がキツいからなのよ.
そんなこともわからないでね,
自分でやりなさいって言う人がいるじゃない」

できる時もあるから,
できると思っていたかもしれません.

「私のキツさは,見せたいけど目に見えないのよ.
それなのに私の話も聴かずに,
自分でやりなさいって言うじゃない」


「私にとっては,石をぶつけられたのと一緒.
言葉じゃないのよ,石よ.言葉も態度も同じ,あれは石.
石を投げられて,痛いのよ.
それで我慢しなさいって言うのは,おかしいでしょ」


「私に石が投げられたのも,
私が石に当たって痛いと思うのも,
私にしかわからないことなのよ」


「私がひどい言葉や手を出すのはね,
石を投げられたから,石を投げ返しただけよ.
そうじゃなきゃ,気が済まないじゃない」


「そんな私に向かって娘は,なんて言った?
昔はこんな人じゃなかったのに,
なんでこんな人間になったんだ,って怒ったよね」

「私だって自分がわからないわ.
私はこんな人間じゃなかった.
どうしてこうなったのか,わからないのよ」


「こんな時こそ,家族なら助けてくれるんじゃない.
戦争中,あの子が小さくて,手がかかって,
私も大変だったのに,連れて船に乗ってきたのよ」



「あんな子,あの時に捨てればよかった.
そう言ってやりたかった.捨てればよかった」



それはあなたが最後まで取っておいた,石だね.
一番大きくて,一番固い,石でしたね.

でも,投げなかった.

投げたら気持ちよかったでしょうに.
とても気持ちよかったはずと,知っていたのに,

でも,もしあなたがその石を投げたら,
あなたはひどく傷ついたでしょうね.
後悔して,でも謝れなくて,ずっと苦しんだでしょう.

それでもなりふり構わず,
石を投げることができたのに,しなかった.
あなたは,そのことを誇ってもいいと思う.
ボクにはできなかったと思う.ボクなら投げてしまう.


あの後ね,ボクのところに娘さんから電話があったよ.
ひどく後悔しているって,声に出して泣いていました.

私の知っている誇らしい母親が,
私には理解できない言葉や行動をしていることを,
とても受け入れることができなかった,と話していました..

ボクはね,それは本人が一番気づいているし,
だからこそ苦しんでいるですよって伝えました.
忘れてしまうことや,うまくできないことがあったり,
我慢することが難しくなったのは,
彼女の意思ではありませんよ,と伝えました.


あなたが,石の言葉を投げなかったのは,
あなたが選んだ強い意志なんだと思う.

抑えきれない気持ちを抑えて,
家族を大切にしようという意志なんだと思う.


ボクはそれを,あなたが誇っていいことだと思った.
あなたも気づいているように,あなたは昔とは少し違う.
でも,変わっていないこともあるんですよ.
それはあったけども,今までは見えなかったんですよ.


そういう意味で,
あなたが娘さんと一緒にあなたの変わっていない,
誇れることを発見できたっていうのは,
家族を大切にしたいという気持ちを確認できたのは,
いいことだったかもしれません.



ボクの仕事はね,作業療法士っていうんですけど,
あなたのそういうところを見つけやすくして,
大事にできるように手伝うことです.

変わらないといけないことを,無理に変えようとするんじゃなくて.
あなたが希望していて,変えることができることは変えますけど,
あなたが誇れることもたくさん探しましょう.

あなたの隠れた意志を言葉にして,
ADOCであなたが語った言葉に意志を込め,
職員と家族に伝えることがボクの仕事です.

そうすれば必然的に,
あなたの意志が示した人生を歩めるように,
あなたも家族も私たちも動き始めるでしょう.

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