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2011/05/14

作業に焦点を当てた関係が始まる時 When the relationship begins with a focus on occupation


先日、沖縄の作業科学研究会に参加した。
第1クライエントは学校の校長、第2クライエントは小学校教員、
第3クライエントは児童の保護者として捉えた報告だった。




成果だけを見れて、クライエントの問題を明確化する能力があったからだと、
思う人もいるかもしれない。今回に限らず事例報告ではよくある誤解だと思う。
クライエントは始めから作業に焦点を当てた対話が可能だったわけではない。

症状と呼ばれる行動や動作よりも
意味と目的のある何かすること(作業)」に、
クライエントが注意を向けることが可能になったのは、
OTがクライエントにとってイメージしやすい方法で
作業に焦点を当てた対話を意識して展開したからだと思う。
その意図を察知する能力がクライエントにあった可能性はあるだろうが、
今回の場合はクライエントの能力に依存した成果ではないと思った。

病院や施設で作業に焦点を当てた支援関係ではなく、
障がいや症状に焦点が偏った支援関係を求められている場合、
クライエントが望むままに障がいや症状に対して向き合うことが
クライエント中心だと主張するOTがいるかもしれない。
それは違う、と今ならはっきり説明できる。




今回、クライエントが考える問題の名前をOTが確認した時、
クライエントは行動や動作(作業形態)を問題だと定義していた。
リハ専門家としてのOTに期待していたことは、具体的な解決方法だったと思う。
でもOTはその時にあえてすぐにそこには触れずに、
問題として定義した理由やその問題が解決したらどうなって欲しいのかを、
丁寧に何度も確認していた。

OTが話題の中心を意図的に作業へと焦点を当て、
その作業ができるようになって欲しい理由(作業的意味)を確認したことで、
クライエントは作業的意味について説明する機会を得ることができたと思う。
説明する過程で、気づくことやその後に考え続けることにもなるかもしれない。

その時からクライエントは作業の問題を相談できる人だとOTを認識し、
作業について一緒に考え始めることになったのではないかと思った。
この過程があったからこそ、
作業ができるようになる方法をクライエントが自ら提案することが
可能になったかもしれないし、
クライエントがそれぞれの関わる相手に対して、
作業に焦点を当てた対話をすることが可能になったのではないかと思った。

このようなクライエントの行動や態度の変化は、
誰でも望む作業ができる機会を保証することに関心があるOTにとって、
自分らしさを実感させたのではないかとも思った。
これでいいんだという安心感のようなものだったかもしれない。
この体験はOTがクライエントと向き合うスタンスに自信を与えたと思われ、
それから先にクライエントと関わる時の考え方や態度を推進する
影響を及ぼしたのではないかとも思った。




つまり、
クライエント中心や協業をする作業療法の実践を始める時には、
クライエントの知識、経験、価値観が影響を与える可能性も十分にあり得るが、
作業療法士の言葉や態度に含まれるメッセージの方が強い影響力があると思う。

OT(人)が、作業に焦点を当てた関係を促すこと(作業)で、
クライエント(環境)は変化し、クライエントの変化はOT(人)と、
作業に焦点を当てた目標への取り組む過程(作業)に、
促進の影響を与えるのではないかと思う。
これは理論というよりは、経験論からはっきり言える。

OTがクライエントにとって特別な意味と目的のある作業について知りたいなら、
クライエントが話し始めるのを期待して待つのではなく、
OTから始めないといけないと思う。
イメージと習慣がないクライエントに対して話すことは難しいかもしれない。
話を始めることができても、話を深めることは難しいかもしれない。
可能ではあるが、技術が必要であるかもしれない。
技術の獲得には知識と経験が必要かもしれない。

それならば、作業選択意思決定支援ソフト(ADOC)という
便利なツールを利用すればいいし、
同僚の誰かと練習をしてもいいかもしれないし、
失敗を恐れずにクライエントとの新しい関係を作り始めてもいいかもしれない。

はっきり言えるのは、
人の話を聞いて感動したり、博識者の解釈を教えてもらったり、
丁寧に詳しく説明された本を読むだけでは不十分だと思う。
あたりまえのようだけど、
部屋にこもってスラムダンクを読み込んでバスケがうまくならないように、
ソファーに寝ながらダイエット成功の番組観ているだけで痩せないように。

何度でも繰り返すが、
作業に焦点を当てた対話や態度(作業)が変われば、
自分が変わり、クライエントが変わる。
クライエントが変われば、そのような影響を受けて自分と作業が変わる。
変わり続ける。
きっと、変わる。
変わると信じているから、作業療法士として仕事を続けていると思う。


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