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2012/08/10

15年ガーデン    -ADOCアップデート-

通所の介護士とケアマネから依頼があり,
彼にADOCを使用して目標を設定することになった.
階段昇降などの機能訓練には積極的だが,
目的が不明瞭で通所利用が継続しなかったらしい.
妻は訓練の目的を知りたがっていた.


15年間ずっと,知りたがっていた.


単語であれば意思を伝えることが彼は可能だった.
作業を選択するために,単語と身振りで意思決定をした.
車いすから身を乗り出して,iPadの画面を指差した.
彼は仕事がしたいと訴えた.
15年前に離れた仕事に戻りたい,と物語った.

単語と瞳と全身で,物語った.

本人,家族,相談員,ケアマネが同席する場で,
検証中だったADOCの新しいPDF書式を全員に配布した.


50歳で脳にダメージを受けてから,
病院,支援センター,デイケア,デイサービスを
転々としていたことはカルテ情報から知っていた。
そこで様々な機能訓練やレクリエーションや手作業を,
彼は熱心に取り組んでいたことも知っていた.


ボクは彼に意見を述べた.
「いま,不況です.同じ仕事に戻るのは,難しいかもしれません.
給料の発生しない,ボランティアではどうでしょうか?」
ちがう,と彼は強く答えた.
その日は目標設定についての話し合いを中断した.



翌週,話の続きがしたいと申し出ると承諾してくれた.
「この通所の上には,老人ホームがあります.
屋上階には広い屋外ガーデンもあります.
入居している高齢者は,外出の機会が多くはありません.
車いすに乗って屋外ガーデンを散歩すると,喜びます」

彼は何度も,強くうなずいた.

「管理している職員もいますが,忙しいです.
草木が枯れることもあります.悲しい,と言う人もいます」

「あなたは.造園業をやっていましたね.
ここで暮らす高齢者と,その家族のために,
屋外ガーデンの管理をしてもらえませんか?」

彼は大きく一度,うなずいた.

「給料を払うことは,難しいです.
でも,あなたが手入れした草木を眺めて,
心から喜ぶ高齢者がいます.それを見て喜ぶ家族がいます」


彼は大きく何度も,うなずいた.


「もし,これが望んだ形の仕事ではない場合,
自分のタイミングで辞めてしまって構いません.
もし,必要があって希望する場合は,
通所を利用する日以外に,ここで仕事をしても構いません」

「通所利用ではない日に来ても構いませんが,
それを問題と考える職員や家族もいるかもしれません.
事故が起こったら誰が責任を取るかと言う人が,いるハズです」

「でも,自分の意思と身体を使って訪れたあなたを.
力で強制的に止めたり,追い出すことは誰にもできません.
立ち向かう必要がある時には,ボクも力を貸します」

「選ぶのはあなたです.責任も自由もあなたにあります.
あなたは子供ではないので,私はあなたから選択権を奪いません」

彼は翌週から通所利用ではない日から,訪れるようになった.






彼の妻は会議の場で話した.


「夫の希望を初めて知りました.
この紙は私も頂いてもいいんですか.
ここに書いてあることは,私がずっと知りたかったことです」


どうぞ,何度も読んでください.
旦那さんは自分の意思で,自分の心と頭と身体を使って,
リハビリーテーションをします.私はその手助けをします.
この紙は通所のすべての職員が読みます.
私たち全員で、旦那さんが思うような生活を送れるように支援します.

私は作業療法士といいます.

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