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2013/01/30

iPad mini で ADOC

tomoriくんADOCのアイデアを披露したのは,2009年秋

訪問リハでも使えるようにタブレット型PCにすることは決めていた.
搭載予定の末端機器は国内メーカーで,20万円以上の価格だった.
画面は10.7型,厚さは5cm,重さは1.5kg,メインメモリは2Gだった.

忘れもしない,2010年1月27日.AppleがiPadを発表.
5万円以下の価格で,厚さ1.3cm,重さ0.68Kg,メインメモリは最大64G.
魔法のようなツールだと衝撃を受け,タイミングが奇跡だと思った.






先日,iPad miniを臨床で活用したので,メモしておきます.


1.作業療法士の感想

とにかく,軽い.薄い,小さい.
初代iPad,new iPadを使っていた影響もあると思うけど,
持ち運びが楽になった.今やデジカメ感覚で持ち歩いている.

new iPadのRetinaディスプレイと比較すると解像度が低いけど,
全く気にならなかった.
気のせいだとは思うけど,むしろきれいに見えた.

評価コメントを入力する画面は,小さいと感じた.
でも,毎月25名以上のADOC評価表を作成しているボクは,
効率よく記録するためにMBPやPCに移して入力しているので問題なかった.

ただし,持参したMacにデータを移して入力する場合は,
上司や事業所と個人情報保護に関する配慮と約束を決めた.
入力はWi-Fi環境下であれば,Siriを使って音声入力することも可能.


2.クライエントの感想

「持ちやすいね」
「これなら持っていても疲れないさ」
「絵と文字は別に小さいと思わないよ」

「あら,絵と文字は大きくできるのね.こっちの方がいいさ」
「ボタンが大きいから,機械が小さくて操作がやりにくいとは思わないよ」
「むしろ小さい方が使いやすいかもね」


3.余談

痛みも軽くなったようですし,しばらくマッサージは終了にしましょう.
必要があればマッサージ師にボクから依頼します.
ところで,園芸や家事が大事と前に話していましたよね.

「そうねぇ.それが好きというよりは家族のため,という意味があったね」
「そういえば, 実家でやる百人一首が40歳くらいまで楽しみだったわね」
「今は使っていない百人一首を持ってこようか」

「私は家族との時間を思い出すし,
他のみんなは頭と身体のリハビリになるんじゃない」






イイですねぇ.
他に関心のある利用者がいるか一緒に探しましょう.
何人か集まったなら,あなたとボクで新しい活動として立ち上げましょうよ.



4.余談PartⅡ

サンシンを弾きながら唄うことが大切な役割だった,
と前回は話していましたね.
あれから何度かデイサービスで弾き語る機会があったと思いますが,
満足度はいまどれくらいになっているでしょうか.

「機会はあったけど,少ないよ.あまり満足度は変わらない」

「ショートステイで上の特養を利用した時,
サンシンが置いてあったから弾いたよ」

「オバーたちが集まって,とても喜んでくれたよ」





それならデイサービス利用の時に,あるいは利用ではない日に,
ボクと一緒に特養ホームで暮らしている方たちのために,
ボランティアとしてサンシンを聴かせる活動を始めませんか.
平行棒の中を行ったり来たりする運動を止めて.

「それはとてもいい考えだね.
自分も手と頭を使うし,みんなが喜ぶなら嬉しいさ」

「昔は故郷で自分が親分になって地元の行事を仕切ってから,
旧盆には道を歩きながらサンシンを弾いたさ.20年以上続いた仕事だったよ.
あれを思い出すさ」

イイですねぇ
それでは来月から始めましょう.

2013/01/21

通所介護と機能訓練加算 (No.1)

ブログを書き始めて5年.
Yahoo!ブログ時代も含めると,総閲覧数が10万回を超えた.
ちょっと多過ぎるんじゃないかと思う.




2ヶ月前,2012年11月に県社会福祉協議会が主催の研修会で,
いきがいのまちデイのtamuraさんと講師を担当した.
依頼をしてくれたgimaさんとは何度もメール,電話や会って話した.

「昨年,今年の老人福祉施設職員研究大会で発表したこと,
いつも琉球OTに書いてあることを,そのまま伝えてください」
と言ってくれたけど,そういうわけにはいきませんと答えた.

主催者は,参加者がどのように行動を起こすことを期待しますか,
期待する行動が達成できたかどうかは,どうやって判断しますか,
参加者が所属する事業所と社協にどのような利益を期待していますか.

問いを繰り返すボクに根気強く付き合ってくれたgimaさんと共に,
研修会の目的と目標を言語化し,精度を少しずつ高めていった.
完成したのは開催の1週間前だったけど,目標さえ決まれば楽だった.

「リハ職員と関係する職員が,
熱中して楽しいと思える仕事で,自信を育んで欲しい.
地域に暮らす高齢者が自信を持って生活できるようになって欲しい」

この目標を達成することが最優先であるなら,
参加者が期待しているだろう,法改正の解釈,指導されない記録の方法,
効率的で効果的な訓練メニューの提示は最小限にすると決めた.

何を構成に盛り込むかではなくて,何を取り除くか,が大事だった.
ADOCと同じように,重要度と緊急度を考慮した優先順位を決めた.
やるべきことが,やらなくていいことに圧迫されないようにしたかった.


介護保険は2030年を目標にした第一歩を,今年踏み出した.
過去のように法が改正される2年,4年スパンで対応する必要はない.
はっきり見えているゴールに向かって,少しずつ価値観を変えればいい.

今回の改正は夢のみずうみ村がモデルになっているのは明らかなことだが,
システムを真似て導入しても同じ成果は得られないし,追いつくともない.
介護保険とモデル施設の理念を理解しておけば,方法論で右往左往しない.





介護保険が15年後に目指しているのは,「その人らしい生活」に間違いない.
使い回されて古びたように聴こえるかもしれないけど,じつは新しい.
今までは支援の質を判断する基準がなかった.これからは違う.

もう仕事の時間ですね.今日はここまで.

2013/01/19

通所介護のOT初回面接

tomoriくんADOCを開発している時,ボクには必要ないと思っていた.
でも,作業をやってみるまでは何が必要かわからない,
ということを去年から日常的に再確認し続けている.

先日のこと.初めてデイサービスを利用する方に,
リハビリテーションの目標と目的を一緒に決めたいと説明して,
同意を得ることができた.


「病院では男の人が腰から下,
女の人が腰から上を一生懸命に揉んでくれたよ.
1日40分ずつくらい,2ヶ月間ほぼ毎日」

「首と手がシビれて痛むし,上手く動かせないの.
2ヶ月でだいぶ良くなったわ.
だから,ここでも同じようにやって欲しい」

「ここね,転んだ時に痛めた.その時はね・・・.
病院では横になって,腕をこう動かしてね・・・.
家では自分で腕を動かす練習をこうやって・・・」






30分ほど経過した後に,
それでは腕が動かせるようになったら,
できるようになりたいことや,困っていること,
期待されていること,もっと上手くやりたいことは何ですか,と尋ねた.

「・・・いろいろあるんだろうけど,
そのためにも首と腕を揉んで欲しい」

昼食時間になったので,
続きは翌々日にすることにした.
その日が訪れて,ADOCを使って面接をした.

「そうね,低いベッドから起き上がる時に困るね.
首が痛むのよ.それから腕もね.
だから病院では横になって腕をこうやって・・・」

30分が経過した後,やりたい趣味を選択する場面になった.
園芸のイラストを見た彼女は,ハッと声をあげて表情を変えた.
しばらくして,静かにゆっくり,はっきりとした口調で語り始めた.



「庭の花木を育てることは,私の大切な趣味であり,仕事でもあったよ.
花と季節によって土と水を考えなければいけないし,
寒さや風から花木を守るために,自分で大工をして箱も作った」

「80歳を過ぎるまで,ずっと花の世話を大事にしてきた.
でも転んでしまってからは,孫たちが危ないと心配をする.
世話になっている孫に迷惑はかけれないから,今はやっていないのね」

「でも,ほんとうに私は,花を育てることが楽しみだったし,
好きだった.今になって思えば,それが生きがいだっと思う.
いつかはまたやりたいとは思うけど,それは言えないと思っていた」






他の職員とも協力して,痛みが少なくなるように治療的な支援をします.
腕がもっと動かせる可能性があるなら,最大限の手伝いをしたいです.
でも,私たちにできるのはわずかな時間であり,ごく一部のことです.

あなたが,自分の意思で自分の身体と心と頭を動かす生活が,
習慣化されるようになったら,それもリハビリテーションです.
花を育てることが生きがいだったなら,取り戻すことがリハビリです.

完璧に動きを取り戻すことや,継続して痛みを取り除くことは難しくても,
あなたが自分で自分の生きがいを取り戻すことは,可能だと思います.
そしてあなたの家族も,期待しているのではないかと思います.



花木を育てるために,どう工夫すれば腕を使うことができるのか,
安全に楽にできるだけ1人で,好きな時間に好きなやり方で,
花を育てることができる方法を,あなたと一緒に考えます.

家族の方と話し合う機会と,実際に庭で花木を育む場面を観察する機会を,
職員に相談して設けてもらいます.
その時に新たな課題や目標が見つかれば,その時に修正しましょう.

あなたが30分以上も楽しそうに語ってくれた,
花を育てる生きがいができるように,
わたしたち職員全員で手伝いたいと思っています.

私は,作業療法士といいます.

2013/01/16

まちづくりと作業療法

ちゃんくすの西上さんから頂いた年賀状への返信として,
日記を書きます.

3〜4年ほど前,いきがいのまちデイのtamuraさんが,
沖縄のある市が募集した町づくり委員会に選ばれて参加していた.
数十年,数十億のプロジェクトであったが,
市民の意見を集めるための1つの委員会だった.

何度も会議を繰り返し,意見がまとまりかけたところで,
委員会で街を歩いて現状と課題を再確認する機会があった.
ボクはtamuraさんの紹介でバリアフリーの専門家として招いてもらった.

ボクは持参した車いすで委員会のみなさんと,
2kmの道を2時間かけて街を移動した
それから公民館で2時間の会議にも参加した.

この委員会が町づくりにどれほどの影響力があるのか不明瞭だったので,
黙って参加していたが,流れ的にボクにも発言の機会が回ってきた.
何を発言するか,よりもなぜ発言するのかを考えていた.

「歩道は雨水を車道に流すために,車道に向かって緩やかに傾いている.
そのため,坂道では上下に加えて左右方向への傾斜にも対応する必要がある.
杖歩行であれば複雑な足底からの感覚に適応する必要があり,
車いすでは車道に流れされないようにしながら坂道を移動する必要がある.
感覚や筋力が十分に働かない状態での環境への反応や適応は困難であり,
移動に関して一般人が思うよりも心身機能への配慮はデリケートである」

というような意見を市民代表者らがボクに求めていることは,空気でわかった.
それに対して予算を盾にして身構えている役所の方々の緊張も伝わった.

確かにその場でその発言をすることはボクに求められている役割ではあったが,
果たしてそれはボクにしかできない役割だろうかと考えていた.
tamuraさんは何のためにこの場にボクを招待したのか考えていた.
考え抜いた末に,ボクは発言した.

「町づくりは,何のためにするのですか.
誰を守るために,誰を育むために,計画しているのですか」

「路地裏でおばあさんの家に子供たちが集まっているのを,見ましたね.
道路を拡張してバリアフリーにするということは,
彼らの暮らす場所や集まって語り合う関係を,崩す可能性もあると思います.
それは町づくりが目指す未来から離れてしまうのではないかと心配です」

「確かに,道は広くて平坦で真っすぐであった方が,多くの人が楽です.
坂道は・・・・という理由で,とてもデリケートな問題を抱えています.
でも道はどこかで何かをするための,移動手段に必要な環境の1つです,
その道を使って人々は,どこに行くのでしょうか,
誰に会いに行くのでしょうか,誰と何をするのでしょうか」

「たとえバリアがあっても,おばあさんが買い物や孫と会えるように,
子供たちが友達と遊んだりおばあちゃんに会える方法があれば,
一番よい選択ではないかと思います.
もちろん,可能であればバリアフリーにした方がいいとは思います」

「市民代表のみなさんの意見に私は共感していますし,賛成です.
でも,限られた予算でやりくりする役所のみなさんの立場も理解しています.
このままだとお互いの意見は折り合わず,いつまで経っても平行線です.
それはお互いが望んだ形の過程や結末ではないと思います」

「いまここで,みなさんはそれぞれの立場から,
何のために,誰のために,市民のどんな生活をイメージしているのか,
話し合った方がイイと思います.方法論や手段ではなく,
目的と目標について話し合った方がいいと思います.
なぜなら,手段は違っても目的は一致しているハズだからです」

「あの路地裏のおばあさんと子供たちの未来を考えるなら,
何をするべきで,何が妥協できるか,話し合えるはずだと思います.
目標が明確であれば,効率的に効果的に実現に向けて,
協力し合って,強みを借り合って,未来を築くでしょう」

「以上が,作業療法士としての意見です」

後日,会議録が送られて来た時,すごい生意気で傲慢だなと思ったけど,
必要な発言しか選択していないなと思った・・・これも生意気か.

期待外れだという視線も感じだが,建築家や役所関係者や商工会の方は
何度もうなずいていたので,これで良かったのではないかと思う.
委員会はおそらく近いうちに解散するだろうし,(実際そうだった)
委員会の意見は町づくりに強い影響力は与えるか未だに不明瞭だと思う.

何年後か,あるいは10年後に,
町づくりを考える時に,作業療法士という人がこんな意見を持っていた,
と誰かが覚えていればいいなと思う.

その時はtamuraさんが関わることになるだろうし,
それが彼の望んでいる役割でもあり,強みでもあるだろう.
町づくりに関係する人と町で暮らす人々にとっても,
その方がより良い選択に近づくのではないかと思う.