10年おでんを観せた.
高齢者にとって最高に理想的な施設だなとつぶやいた.
浦添市で独居していた祖母は70代で沖縄市の軽費老人ホームに入居し,
2年後には併設の特養ホームへ移って6年間暮らした.
それから那覇市の特養ホームへ移り,さらに8年間を施設で過ごした.
お袋は週に4日,1日8時間通い詰めて介護をしながら,家族会の会長を務めてた.
ボクはその間に高校生から作業療法専門学生,そして作業療法士になっていた.
独り暮らしを始めてからは,数ヶ月に1度くらいしか祖母の面会にいかなかった.
どこかに連れて行こうと考えたことはなかった.
何をして欲しいと願っているのかと聴いたこともなかった.
職員に望みを聞かれたことはなかったけれど,答えることもできなかっただろう.
親父との生活は家族でも苦行なので,祖母との同居どころか外泊さえ選択肢になかった.
人見知りが激しいせいで,施設内での友人が数少ないことも知っていた.
罪悪感や無力感に似た気持ちで面会へ行き,食事介助をして帰ってきた.
庭木が冬に向かって少しずつ葉を落としていくように,祖母の身体と脳は衰えた.
言葉を失ってからは,虚ろな瞳の祖母の手をただ握って面会の時間を過ごした.
自然な老いだと感じていたし,特別な支援や訓練が必要とは思わなかった.
深く大きな褥瘡を治療するため入院を繰り返し,その度に関節拘縮と筋力低下が進んだ.
肺炎で入院中に胃瘻を造設されて施設に帰ってきたので、お袋をひどく責めた.
死んでもいいんですか,と医者に言われて断れなかったと聞き,何も言えなかった.
お袋はひとりで選択せざる得なかったし,もし相談されたらボクも悩んだはずだった.
何が正しいかわからないまま時は流れて,ある夜に前触れもなく亡くなった.
前夫との子も連れて3人の子供を,30代からひとりで育てた祖母は永眠した.
通夜で1時間ほど顔を動画撮影したが,動きがなかった.
生きている時に撮ればよかった.
話せばよかった,聴けばよかった,連れて行けばよかった,観せればよかった,
食べさせればよかった,聞かせればよかった,会わせればよかった.
厚生労働省老健局老人保健課「高齢者の地域におけるリハビリテーションの新たな在り方検討会 (第2回)」平成26年10月15日 資料2-1と資料2-2より抜粋
通所リハビリテーションにおけるリハビリテーションの実施内容は「筋力トレーニング」が86.6%、「関節可動域訓練」が74.2%、「歩行訓練(屋内)」が71.2%であった。「排泄・入浴などのADL訓練」は8.2%、「社会参加訓練」は2.2%であった。
通所リハでは維持の割合が多く、通所介護では、通所介護に通うという社会参加を短期目標としているところが多かった。いずれも、「地域社会への参加」を設定しているケースは非常に少なかった。
身体機能については、本人の52.2%が良くなると思っている一方、リハビリテーション専門職は20.7%が向上すると考えていた。日常生活活動については、本人が50.5%で、リハビリテーション専門職は15.6%が向上すると考えていた。社会的活動については、本人が32.5%で、リハビリテーション専門職は8.2%しか向上すると考えていなかった。
問題の所在:個別性が重視されず、画一的なリハビリテーションが実施されている
論点:①日常生活や人生の過ごし方について利用者の意向が引き出せていないのではないか,②リハビリテーション計画がプログラムを決めるだけに形骸化し、PDCAが実施されていないのではないか
問題の所在:具体的なプログラムの策定で、身体機能に偏った内容になる
論点:①実施するプログラムの内容が身体機能訓練を中心に実施することを前提としているのではないか,②社会への復帰や在宅での自立した生活を向上させるために、どのようなリハビリテーションをどのような専門職で提供することが効果的か理解されていないのではないか(※リハビリテーション専門職という言葉で、移動などの基本的能力を高める理学療法士、活動と参加能力を高める作業療法士、言語聴覚と嚥下摂食を改善する言語聴覚士が一括りされている)
問題の所在:①高齢者の思いに焦点を当て、本人の積極的参加を促すアプローチが実現できていない
論点:①高齢者の思いに焦点を当て、本人の積極的参加を促すための技術が具体化・体系化されていないのではないか
祖母が生きている時に,意思疎通が可能な時に,作業療法をやりたかった.
今なら祖母と自分にとって大切なことを発見して,職員や家族と共に実現できる.
論点:①高齢者の思いに焦点を当て、本人の積極的参加を促すための技術が具体化・体系化されていないのではないか
今なら祖母と自分にとって大切なことを発見して,職員や家族と共に実現できる.