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2015/10/10

福祉 is a good job(小学生向け講座:改訂版)

業務以外の仕事をする時に,何をするかではなく,
何のためにするのかを問うて即答できる人に限り,
迷わず時間と労を注ぎ込みます.

昨年から株式会社ケイオーパートナーズさんと取り組んだ,
高校生から小学生向けに向けた「福祉職の魅力と可能性」
というテーマの講演内容を少し紹介します.
takazatoさん,ありがとう.



君たちは10才だったね.
娘と同じ年だから,同じように話すよ.
今日は3つの話をするね.




まずひとつめ.
福祉に対してどんなイメージを思い浮かべるかな.
高齢者や障がい者,その他に困っている人や弱っている人に,
何かをしてあげると思う人もいるかもしれない.

すべてとは言わないけれど,それは間違い.
してあげるのではなく,自分で機会と環境を変えれるように手伝うこと,
自分で自分を変える力を一緒に育てることです.

話ができない人や考えることが難しい人の場合は,
ボクらがより良い生活のために必要なことを考える責任がある.
一緒に決めることができる人でも,そのまま従うわけでもない.

ボクらの知識,技術,経験を活かして提案をすることがある.
押し付けでも,いいなりでもなく,一緒に決めるという過程が大事なんだよ.
君たちがやっているグループ課題や部活や遊びに近いと思う.


一緒に決めることで自分が参加している感覚を尊重できる.
それにね,福祉を提供する人と利用する人の関係だけに言えることでもない.
組織やチームでも同じこと.

福祉の仕事にはいろいろあって,たとえばボクらの職場,
特養ホームという生活する場において介護士,看護師,相談員,ケアマネジャー,
事務職,栄養士,厨房職員,清掃員,そして作業療法士という,
リハビリテーション職がある.

ボクらは誰かの指示で動くわけではなく,それぞれが得意分野を活かしながら,
他の職種の強みを寄せ合ってひとつの仕事をしている.
寄せ合わせようとしても,それぞれに違う考え方やルールがあるから,
うまくいかないこともある.



でもね,違いがあることは悪くないんだよ.
ひとつの職種ですべての課題が解決できるのならいいけれど,
複雑で多様な人生や生き方を支援しようと思ったら,
いろんな特技を持った人で集まった方が,確実により良い支援に近づける.



ボクは作業療法士という仕事をしていて,好きだから軽くは見られたくないけど,
自分の仕事だけが最高とは思っていないし,できないこともたくさんある.
いろんな仕事をできる人が,たくさん集まった方が最高だと思っている.

つまりね,仕事の違いがあってこそ,より良い仕事ができる.
違いによって生まれる,すれ違いはある.これは避けられない.
その時はよく話し合って,一緒に決めることがより良い結果につながる.

だからね,自分の得意分野を伸ばすことが大事なわけ.
得意分野をさらに伸ばすためには勉強をしなければいけない.
大人になってもだよ.むしろ,君らよりも大人が勉強している.
もっと確実に,もっと早く,もっと多くの人ができるように,いつも考える必要がある.

必要がある,というと義務みたいだけど,
これは自分自身が必要だと思うんだよ.
どんな仕事にも言えることだけど,
自分を大切にしたい,楽しいと思えるのは,自分がより良い仕事をできると,
自分の行動を振り返って,自分に期待できた時なんだよ.



話が逸れてしまったかな,そうでもないけどね.
それでね,一緒に決めると話してきたけど,大事なことは何を決めるかだよね.
より良い生活に向かうってことなんだけど,よくわからないよね.

その人にとって何がより良い選択かなんて,その人にもボクらにもわからない.
だって,君たちだって,君たちが何を求めているか,何が必要かはわからないでしょ.
ひとつの正解に全員が当てはまるわけではないし,無理に押し付けるものでもない.

その人に何が必要かは,その人によく聞かなければわからない.
聞いてもわからないかもしれないけど,少なくても近づけない.
よく聞くというのは,黙って聞けばよいというわけでもない.

その人もよくわかっていない自分を一緒に探すということなんだよね.
何も困っていないよ,助けてもらっているから何でもできるよ,と答えた時に,
ほんとうにそうなのかと考えながら確認することが,よく聞くということなんだよ.




知識や経験があれば,その人に何が足りないかはわかることもあるけれど,
何を求めているかは,その人と探さなければわからない.
その人にとって,より良い生活というのはその人が生きてきた物語にある.

イメージしてみて.
自分のこと,親のこと,ばあちゃん,じいちゃんのこと.
福祉とはそのイメージを大事にしようとする仕事だよ.



さて,2つめと3つめの話はいずれまたここに書き残す.
・・・かもしれない.


2015/08/12

インクルーシブ教育フォーラム in沖縄

[イノベーション ]
それまでのモノ・仕組みなどに対して全く新しい技術や考え方を取り入れて,
新たな価値を生み出して社会的に大きな変化を起こすこと.

[インクルーシブ教育]
同じ場で共に学ぶことを追求するとともに,個別の教育的ニーズのある幼児児童生徒に対して,
自立と社会参加を見据えて,その時点で教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できる,
多様で柔軟な仕組み.



インクルーシブ教育といえば,障がいがある子がそうではない子と一緒に教室にいる,
と以前は思っていました.しかし,調べていくとより広い視点であることに気づきました.
「すべての子ども」が一人ひとりが「違う」ことで,
学び方はそれぞれ多様であるというシンプルで力強い考え方が前提にありました.

たとえば高齢者福祉の領域で考えると,聞きにくいのであれば補聴器を,
見えにくいのであれば眼鏡を,歩きにくいのであれば車いすを使用して,
より良い生活を送るという解釈では不十分ということです.

同じ地域で関係を保ちながら生活を送ることが目的であれば,
豊富な経験を活かして就職あるいは無償で生産やサービスを提供すること,
重度要介護であっても五感を刺戟する活動に要支援者と参加すること,
同じ場で時に全体集団で活動し,時には個別や複数の小集団で活動に参加すること.



こう考えると福祉と教育は似ているかもしれません.
抱える課題の背景には性質の似た事情があるようにも思います.

人員不足を根本にした書類作成業務やルーチンワークによる多忙を背景に,
理想と現実は異なるという意見や,特別な支援は平等性を失うという批判,
現状を肯定するがゆえの新しい取り組みへの消極的態度.

システムの存在意義や問題解決のプロセスも近いように思います.
支援を求めている者に気づいて相互に支援ができるつながりや体制の構築,
障がいではなく社会参加レベルの目標を実現する問題解決能力と環境へのアプローチ,
人は自ら環境や機会をコントロールできるという前提.



最も類似してる点は,
人はそれぞれ違うことを前提として社会参加レベルに焦点を当てた施策が,
これから加速度的に構築されてゆくのは確実だということです.

課題と解決をどのように定義し,何をもって目的が達成したと判断し,
具体的な実践のプロセスを読み解き,これから展開される施策を予測する.

講演とシンポジウムを通して考える体験を参加者と共有することで,
私たちの子供や子供に関わる人々の未来に向かって,
それぞれが一歩を踏み出せることを期待しています.



1.日時:平成27年8月16日(日) 13時00分より16時15分
2.場所:沖縄県男女共同参画センター てぃるる (沖縄県那覇市西33-11-1)
3.内容:①基調講演 インクルーシブ教育の最前線 野口晃菜 氏 株式会社LITALICO
               ②基調講演 インクルーシブ教育の実際    仲間知穂 氏 NPO法人ADOC project /
                                  琉球リハビリテーション学院
     ③シンポジウム 「ふつう」の生徒,「当たり前」の教育を問い直す交流及び共同学習
             司会    大城政之 氏 県立島尻特別支援学校 校長
             パネリスト 青木一桂 氏 名護特別支援学校 教諭
                   末広尚希 氏 ライオンの子保育園グループ 代表取締役
                   野口晃菜 氏
                   仲間知穂 氏
4.お申し込み先,お問い合わせ先:NPO法人 ADOC PROJECT 

  インクルーシブ教育 最前線 申し込みページ

5.協賛:一般社団法人 生命保険協会,株式会社レキサス
6.後援:沖縄県教育委員会,沖縄県社会福祉協議会,沖縄県社会福祉士会,
     沖縄県心理士会,沖縄県理学療法士会,沖縄県作業療法士会7.主催:NPO法人 ADOC project







2015/05/07

これから作業療法士になる君たちへ

楽しく,感動的で,微笑ましいことも,
長く,辛く,苦々しい思い出もあるよね
新しいスタートに不安と期待を抱えている君へ

専門教育と臨床実習を経て,やっと手に入れた卒業証書も,
真新しい国家試験の合格書も,白く新しいユニホームも,
それだけでは君を作業療法士にはしてくれない

完璧な作業療法士はいない
作業療法士とは何かを,すべて知っている人もいない
日々,作業療法を実践する中で成りつつあるもの



漠然とした不安を抱えていると,
すぐに役立つ知識と技術を求めたくなる
求めることは悪くないけれど,
不安が根本にあることは知って損はない

役所や営業職,外食業は異動のある総合職だが,
医療,福祉業界などで作業療法士が働く場合は,
専門職としての役割を期待されていることが多い

つまりオールラウンドプレイヤーではなく,
ある特定の領域において特化した能力を求められる
逆にいえば,当たり前だけど,できないこともある

それは知識,技術の課題かもしれないし,
時間や制度による制約かもしれない
すべての対象者のすべての時間,多様な問題や
あらゆる生活行為に関わることはできない



だからこそ,できないことを他人に説明する必要がある
何でもできると思いたいし,言いたいけれど,
どこかで線引きをした上だと認識しなければいけないし,
認めたくなければ業務を独りでしなくてはいけない

やってみればわかるけど成果は十分でなく,効率が悪い
組織やチームの存在意義を知らなければ,
自分の存在意義もしっかり見つめることはできない

そこで自分にできる役割を再考してみると,
職種の存在意義になる
自分の個人的な存在意義を合わせてみると,
自分が何がしたいんだって問いにたどり着く

だからこそ,個人的な長期的目標が重要になる
でも経験がなければ実現可能な目標は描くことができない
経験した内容によっても価値観は変わり続けてゆく


環境によっても,自分の経験によっても変わってゆくが,
不十分でも曖昧でも目標はイメージし続けた方がいい
イメージしようとするプロセスにこそ,価値がある

良いか,正しいか,立派であるかは問わない
あこがれたり,尊敬している人ではなく自分で決める
自分で決めたということが強い意志に育つ


ありのままの自分で描ける目標が見えるようになるのは,
ひとりの対象者になる

いまの自分が持っている知識と技術では力が足りないと感じ,
どうにかしようと,もがき苦しみながらも
目標に少しでも近づけた時に見えてくる

ほんとうは自分がどんな仕事をしたいと思っているのか,
少しずつみえるようになる
その日から作業療法士に成る道を歩み始める



不足はあっても,
君が日々に何を成すかで将来の君は,
いま成り立ちつつある

誰だって,今日を誇れるような仕事がしたい
毎日が感動的ではないけれど,
目標に向かっている一歩ならば大事だと思える


自分だけの悩みではないと知りつつ,
自分の悩みも軽く見ず大事にする過程こそが,
君が思う君へ近づく道


2015/04/23

介護保険制度改正で作業療法士は働きやすくなったはずだよね

遅れたけど,めがねOTさんtomoriくんに続いてリレー日記.
ゴルフには守るショートよりも攻めのオーバーという名言がある.
好きだけど,本文とは全く関係ありません.しかも未経験者です.



勉強して,挑戦して,いい結果が出たと思ったら,
同じ結果を残すために過程を振り返ってルールを探したい.
ルールに基づいた手順がマニュアルで,
ルールのメカニズムを明文化したものが理論(セオリー)になる.

理論を偶然や経験論,思いつきに依存せず,
信頼性と再現性の高めるため試行錯誤することを研究と呼ぶ.
研究を重ねて精度の高くなった理論に基づくマニュアルができた時,
より多くの人に使ってもらいたいと思うはず.
最も効果的で効率的な手段が,制度だと思う.

制度とは間違いが少ないことを期待されたマニュアルだが,
マニュアルを使う人と環境のことを,どこまで大目に見るかが難しい.
厳密に規定すると使える人は少なくなり,
規定を緩和しすぎるとマニュアルを作成した意味を失ってしまう.
認定看護師制度は優れているなとつくづく思う.

こういう視点で読み取れば,保険情報もドラマがあって面白い.



回復期リハ病棟が始まった10年以上前に,聞いた話がある.
「病棟にプラットホームを置いて骨盤の緊張を整える治療をやれば,
回復期リハ病棟加算を取れるよ.やることは訓練室と同じだよ」

「クリティカルパスの通りに動く義務があるから,
歩行できる人もベッド上で端座位保持の訓練をしているよ.
パスを作成した医者に気を遣わないといけないからね」

別の職場で働いているけど好きな先輩だったので思わず,
「職場を辞めるか,仕事を辞めるか.どっちか今すぐ選べ」
と言った自分が無礼で恥ずかしい.・・・と今なら少し思う.



生活行為向上という言葉が制度に採用され,
作業療法士が本来の業務に従事せざるえないシステムは,
日本OT協会の戦略と戦術がもたらした歴史的な改革だと思う.

揉み揉み,ホットパック,歩行=リハビリという偏った価値観の中で,
「目標なんて要らない,高齢者は触ってもらことが生きがいなの!」
と言われたことのある人なら歓声を上げたいと思うけれど,
経験知が警鐘を鳴らす.


加算を取れと言われて重圧を感じるセラピストに配慮しよう
と,すでに厚生労働省の議事録にも記載されている.
何をすればいいかわからない人たちがいる,とも読み取れる.

それはOTではない人の悩みかもしれない.
特養や通所介護の機能訓練員は看護師が7割以上を占めるし,
病院で働いた経験の長いPTは戸惑うかもしれない.

歩行訓練とマッサージと集団体操がリハビリと認識していれば,
社会参加レベルの支援を理解できない可能性がある.
まぁ,支援目標を社会参加にするのは職種に関係ないけれど.

そんな人たちは規定の講習会を受ければ加算を請求できると,
講習会に居眠りしながら参加し,以前と同じ仕事をするかもしれない.
監査で言い逃れる言葉を使って記録することに時間を費やすだろう.
防ぐためにはルールを厳しくするしかないのだけど,
使える人がいなくなってしまうという議論に戻ってしまう.



・・・遠回し過ぎて道が外れていきそうなので率直に言う.
作業療法士はこの機会をチャンスと読み取るか,
ピンチと感じるかは個人の勝手だし,他人が関与することではない.

チャンスだと感じている人だけに相談したい.
今ここで結果を残さないと次の改定の時に,
「目的は機能維持で,現実的に達成できない目標の支援をまだやってる?
君らは生活習慣や生きがいを支援できないんだね.他を当たるよ」
と言われることは確実.今動かなきゃ.できるだけ多くの仲間と一緒に.

同業者に気を遣いすぎてやらなくて後悔するよりも,
対象者にのめり込んでやり過ぎて怒られた方がいいよ.
準備してもらったコースは結果を残さなきゃ消える可能性があるから,
守るショートよりも攻めるオーバーですよ.


2015/02/11

第二回 日本臨床作業療法学会 学術大会 振り返り

翌日,優秀賞状の名前をクライエントに書き換え,
クライエントと職員のために授賞式を開いたと連絡がありました.
彼女はその場に彼らがいるつもりで事例報告をしたそうです.

自分に何ができるか確認するため仲間の話を聞き取り,
地域で暮らす人や自分の家族や担当しているクライエントの話を,
泣きながら朝方まで語り合ったとメールがありました.

家族のため地域の活動団体に思い切って参加した,
研究や作業療法の理論に関する本を購入して読み込んだ,
意思疎通が難しいと思っていたクライエントに踏み込んだ面接ができた,
あなたの発表を聴きてみたいとクライエントが話してくれた,
と電話やメールをたった1日でいくつも受け取りました.

出勤すると,大会に参加した学生が作業に焦点を当てた面接評価をして,
実場面の活動ができる環境を提供し,観察結果を元に丁寧な機能評価を実施し,
目標を実現するために必要な治療と支援の戦略を議論していました.
3人の学生が同時にです.


今大会は演者が参加優先の,移動不可型な分科会システムを導入しました.
質的研究に関心がある人,量的研究の経験がある人,管理運営が得意な人,
プレゼンテーションが上手い人,研究会作りに長けた人,面接スキルが高い人.
それぞれの強みを活かして貢献し合う関係作りを促すためでした.

当学術大会の存在価値はテーマや内容に独自性と創造性があり,
作業に焦点を当てた実践の発展に貢献する研究の共有です.
今回の経験を通して学術性における課題が明確にわかりましたが,
団体として次のステップに上がる時期であることを示唆していると解釈しました.

第二回大会の目標は,第三回大会に見据えていました.
今回の経験と関係が価値のあるものだったかは,1年後にわかるでしょう.
目標に向けて私たち学術団体も,参加者と共に前進し続けたく思います.



悩みながらも大会で演題発表をしていただいた皆さま,
すべてを受け入れて快くファシリテーターを引き受けていただいた皆さま,
多忙な中で1年間に渡って運営の手助けと助言をいただいた学会理事の皆さま,
深く感謝の気持ちを申し上げます.

そして,運営会議は1回のみ開催と決め,メール会議のみという強行を許し,
マンワンで自由でだらしない私を見守っていただいた運営委員の皆さま,
ほんとうにたくさんの心配と苦労をかけました,心より感謝を申し上げます.

メンバーは過去の研修会参加者リストと学会抄録を読んで私が選出したので,
ほとんどが大会当日に初対面となり,混乱や戸惑いもあったと思います.
共に未来を創りたいと思えるメンバーであることを再確認できました.



最後に講演スライドの一部を引用して,大会の振り返りとして記録します.






あなたが望むなら,彼らを肯定してください.
そして彼らのため,自分に何ができるのかを考えてください.
あなたにしかできない支援を探し,行動を起こしてください.






あなたの行動が変われば,
環境と人は互いに影響を与えながら,変わり続けていきます.
それは作業療法の理論が示しています.

変わるはずがないと思っても,
まずやってみてください.
変えられると気づくことが,他の何よりも大事です.






同じ価値観と行動を経験をした人たちと共に,
新しい当たり前を創るという目標.

作業と環境を変えれば,
あなたと私たちは必ず
変わることができます.




ありがとうございました.