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2012/08/25

第10回沖縄県作業療法学会の挑戦

2012年9月22日〜23日に第10回沖縄県作業療法学会が開催されます.事前申し込みの受付締め切りを8月末日まで延期しました.






自信がないとOTから相談があった時,学会での事例報告を勧めています.発表による達成感を味わうというよりは,自分の経験を自分の言葉で振り返り,自分で考え,自分で調べる過程にこそ価値があります.ある一定レベルは結果の信頼性や妥当性は必要でしょうしが,その「ある一定レベル」の判断基準は査読者でも厳密には統一されていません.査読者の質を判断する基準も明確化されていません.したがって,発表に値しないという自己や職場仲間の判断で断念することに疑問がありました.まずやってみることでしか,わからないことがあります.信頼性と妥当性が証明されていない判断基準で報告の機会を失っているとしたら,社会と会員にとって損失と言ってもいいかもしれません.






沖縄県作業療法士会と学会運営委員は新しい仕組みに挑戦しました.学会発表サポートシステムと呼んでいますが,抄録からプレゼン資料までを包括した「オープン査読システム」のことを指しています.従来のダブルブランドシステムでは,報告を希望する県OT会員は抄録を送った匿名の査読者から,指導や助言が記載された文書を一度だけ封書で受け取っていました.新しいシステムでは希望した会員に限って,各研究会が責任を持って抄録の査読とサポートをします.各研究会は研究分野と教育法についての知識と技術が「ある一定レベル」は保証されていると前提した場合,学会全体の質が向上すると期待しています.また,研究会にとっては特定分野の学術を深める仲間とのネットワーク構築へと発展するかもしれません.報告の質について批判的意見を述べるだけではない建設的な支援の過程は,新たな学術的見解と遭遇する機会になるかもしれません.







県OT会,各研究会,県OT会員,学会運営委員会の使命を考え直した時,それぞれは予算やコネクション,実働する人員,看板を貸し借りする関係ではないと気がつきました.大きな目的と意味に向かう1つの小社会であり,目的を実現するための手段が違うだけです.それぞれに強みがあり,強みを活かした支援をしても見返りを求めることなく,協力し合ってこそ互いの強みがさらに活きているはずです.これは理想論ではなく,効率的な方法論だと思っています.なぜなら・・・長くなりそうなので図解して締めます.






知識,技術,態度をより成長させたいと臨床でがんばる県OT会員,その会員で集まって学びを深め合っている研究会,会員と研究会が経験と知識を共有できる場を設けようと無償で働く学会運営委員会,会員の社会的地位向上と社会貢献をサポートできる方法を模索する県士会.もし,学会と研究会と県士会を解散させても,必然的に同じような役割と性質の組織が誕生することになるでしょう.2012年9月22日,23日に学会へ参加される会員の方は,この日に込められた目的と意味を少しだけイメージするとより楽しめるかもしれません.そして今年は発表できなかった会員も,来年は挑戦して欲しいと思っています.








2012/08/23

ゆるゆるす

息子が自分の頭をカミさんの耳に、
ゴリゴリと押し付けていたらしい。
気がついた彼女は息子に言った。

「トムとジェリーはマンガだよ。
ママの耳に入って口から出てこれないよ」
なーんだ、とつぶやいたらしい。






揺れない、広くて丸い心を持ちなさい、と言う。
そうでありたい。だから、
偉人のメッセージに蛍光ラインを引いておく。

それでも、許せない!と感じた瞬間に、
正義の鉄槌を下したくなる。
しばらくして、そんな自分を責めたくなる。

自分に向けた刃は容赦なく急所を狙う。
次から同じような気持ちにならないよう、
傷跡がわかるように斬りつける。

痛みって必要かな?
変わる必要なんてあるかな。
聖者はなれなくても存在してイイよ。

自分が自分を否定すると、かわいそう。
自分だけは自分の味方であって欲しい。
聖者がベストだけどムリなら仕方ないねって、言って欲しい。

それに、
自分は変わらないと許されないと思うから、
人も変わらないと許さないと思い込むかもしれない。
それもまた苦しい。必要のない苦しみだと思う。



揺るがず、広く、大きな心は、
自分に向けた方がいい。
揺らいでも、狭くても、小さくてもいい。

耳から入ってきた言葉も、
口から出て行った言葉も、
温かいものだけを握ればいい。

みんなのリハプラン


飲食店は、食べ物を売っているんじゃない。
不動産屋は、物件を売っているんじゃない。
学校は、知識を売っているんじゃない。

家族や親しい人々との時間や関係を築いたり、
保つための手段を提供しているんだと思う。
医療福祉屋も同じで、それが社会だと思う。






始めて手に入れたデジカメはCanonのIXYで,
回復期リハ病棟に働いていた8年前だった.
画像は年に20,000枚,動画は2,000本も撮影した.

機能的回復に伴って日々変わるADL動作を画像や動画で共有した.
日常的な生活で必要以上に介助しないことが,
最も効率的で効果的なリハビリテーションと思っていた.

本人の同意を得て他の患者さんに見てもらうこともあった.
病気によって馴染みのない身体と病院環境で,
これからの生活がイメージできない方に役立つこともあった.



5年前,頸椎損傷を負った彼にAMPS講習会でライブケースを依頼した.
彼はヘルパーに自分を撮影させて後日Youtubeに公開した.
公開前に日本AMPS研究会に許可を伺ったところ,
担当者はアメリカAMPS研究会にも問い合わせてくれた.
世界中のAMPS講習会受講生と講師に紹介したいと,
返信があったらしい.彼はそれを何よりも喜んだ.

1年後、彼と一緒に新しい仕事もした.
車いすなど使って街や公園や飲食店を歩き,
車いすがあっても作業に参加できる方法を,
琉球リハ学院のOT学生100名に画像と動画で集めてもらった.
学生らが集めたデータを彼には編集してもらい,
インターネット上で公開してもらった.

それらの動画は通所リハの利用者に閲覧してもらい,
あきらめていたけどやってみようと思う気持ちを,
湧き上がるための道具として使用した.



それぞれの強みを活かして,互いに貢献できることがある.
遠く離れていても.年齢や経験年数が違っていても,
働く領域や病期が異なっていても,別の専門職でも,
身体や精神に障がいや症状が残っていたとしても,
互いに貢献できることがある.
それは自分のためにもなる.



それは信念のように思っていたので、
3年前にtomoriくんからADOCと「みんなのリハプラ」のアイデアを聞いた時、
ボクは「みんなのリハプラン」の方がニーズは高いと思った.







リンク→みんなのリハプラン

みんなのリハプランとはリハビリテーションで工夫したことを、
写真や動画で世界中の人々と共有するためのサイトです。






さきほど,

①観光ホテルのトイレと浴室を使用する方法
②片手でコーヒーを淹れる方法
③車いすで沖縄そばを食べる方法
④関節拘縮改善クッションの作り方
⑤COPMの使い方
⑥要介護5でもゴルフ観戦できる方法
⑦ADOCインタビュー方法
⑧片手でチラシを使ってチリ箱を作る方法

を投稿しました.

2012/08/10

15年ガーデン    -ADOCアップデート-

通所の介護士とケアマネから依頼があり,
彼にADOCを使用して目標を設定することになった.
階段昇降などの機能訓練には積極的だが,
目的が不明瞭で通所利用が継続しなかったらしい.
妻は訓練の目的を知りたがっていた.


15年間ずっと,知りたがっていた.


単語であれば意思を伝えることが彼は可能だった.
作業を選択するために,単語と身振りで意思決定をした.
車いすから身を乗り出して,iPadの画面を指差した.
彼は仕事がしたいと訴えた.
15年前に離れた仕事に戻りたい,と物語った.

単語と瞳と全身で,物語った.

本人,家族,相談員,ケアマネが同席する場で,
検証中だったADOCの新しいPDF書式を全員に配布した.


50歳で脳にダメージを受けてから,
病院,支援センター,デイケア,デイサービスを
転々としていたことはカルテ情報から知っていた。
そこで様々な機能訓練やレクリエーションや手作業を,
彼は熱心に取り組んでいたことも知っていた.


ボクは彼に意見を述べた.
「いま,不況です.同じ仕事に戻るのは,難しいかもしれません.
給料の発生しない,ボランティアではどうでしょうか?」
ちがう,と彼は強く答えた.
その日は目標設定についての話し合いを中断した.



翌週,話の続きがしたいと申し出ると承諾してくれた.
「この通所の上には,老人ホームがあります.
屋上階には広い屋外ガーデンもあります.
入居している高齢者は,外出の機会が多くはありません.
車いすに乗って屋外ガーデンを散歩すると,喜びます」

彼は何度も,強くうなずいた.

「管理している職員もいますが,忙しいです.
草木が枯れることもあります.悲しい,と言う人もいます」

「あなたは.造園業をやっていましたね.
ここで暮らす高齢者と,その家族のために,
屋外ガーデンの管理をしてもらえませんか?」

彼は大きく一度,うなずいた.

「給料を払うことは,難しいです.
でも,あなたが手入れした草木を眺めて,
心から喜ぶ高齢者がいます.それを見て喜ぶ家族がいます」


彼は大きく何度も,うなずいた.


「もし,これが望んだ形の仕事ではない場合,
自分のタイミングで辞めてしまって構いません.
もし,必要があって希望する場合は,
通所を利用する日以外に,ここで仕事をしても構いません」

「通所利用ではない日に来ても構いませんが,
それを問題と考える職員や家族もいるかもしれません.
事故が起こったら誰が責任を取るかと言う人が,いるハズです」

「でも,自分の意思と身体を使って訪れたあなたを.
力で強制的に止めたり,追い出すことは誰にもできません.
立ち向かう必要がある時には,ボクも力を貸します」

「選ぶのはあなたです.責任も自由もあなたにあります.
あなたは子供ではないので,私はあなたから選択権を奪いません」

彼は翌週から通所利用ではない日から,訪れるようになった.






彼の妻は会議の場で話した.


「夫の希望を初めて知りました.
この紙は私も頂いてもいいんですか.
ここに書いてあることは,私がずっと知りたかったことです」


どうぞ,何度も読んでください.
旦那さんは自分の意思で,自分の心と頭と身体を使って,
リハビリーテーションをします.私はその手助けをします.
この紙は通所のすべての職員が読みます.
私たち全員で、旦那さんが思うような生活を送れるように支援します.

私は作業療法士といいます.

2012/08/01

ADOCとOSセミナーin札幌


2012年7月16日,札幌医科大学で弁当を食べながら,
科学哲学者の村上陽一郎によって書かれた,
「人間にとって科学とは何か」を読み返していた.

いつものところで目が止まった.
「環境問題,医療福祉などにおいて,専門家としての科学者だけに委ねず,
一般の人々も生活者の立場で参加し,考え,意思決定をすることが必要」


第16回日本作業科学セミナーに参加した.





勇気と元気を振り絞ってポスター発表をした.






特別講演に参加することも目的の1つだった.

ドリス・ピアス先生は作業科学の4つの本質として,
記述に関わる作業科学,関連分野との作業科学,
予後に関わる作業科学,処方関連の作業科学を挙げた.
作業科学は作業療法を支えるために研究を生み出す,
と,まとめたように思う.


ルース・ゼムケ先生も同じように現状を整理し,
作業科学と作業療法の関係性について提案されていた.
そのためにまず,作業とは何か,科学とは何か,
理論とは何か,研究とは何か,と問いを立てていた.


近藤先生による佐藤剛記念講演が印象的だった.
葉山靖明さんへの面接を通して発見した事実について,
作業療法士として解釈,説明されていた.
さらに壇上で葉山さんとの対談.


作業科学に基づいた質的研究が,作業療法にどのように貢献できるのか.
というOS誕生と同時に生まれた疑問に,真摯に応えようとしていた.
専門家の解釈だけではなく,葉山さん自身の強いメッセージが,
作業療法士の主張,解釈を力強くサポートしていた.理想的だった.


懇親会にも参加した.
日本各地の作業科学研究会が壇上で活動報告と情熱を送っていた.
勧められて壇上に上がり,みんな家族だよ,と空気を読まずにしゃべった.





来年は福島で開催.次期開催に向けた挨拶で最後は締めくくれた.
侍OTさんの相棒,munakataさんが齋藤さんの熱い原稿を読んだ.
ボクは思わず感極まって少し泣いた.




セミナー終了後,チャンスがやってきた.
走って講師の前に立ちはだかった.
世界中の作業療法士に最も影響を与えるOTの1人である,
ゼムケ先生とピアス先生にADOCプレゼンをするために!
無理に休日を取って旅費交通費は自腹でもやりたい作業だった.


自然な文脈の中で作業についてのストーリーを引き出す,
と強調している作業療法と作業科学のリーダーは,
ADOCについてどのように反応するのか興味があった.
批判的な意見があるかもしれないと覚悟していた.
英語は全く話せないし,聴き取れないので,
助けてくれーと周りの人にお願いしながら,飛び込んだ.




「わお!これって素晴らしいアイデアだわ!エクセレント!
日本人って,COPMを使っても自分の意見を上手く表出できないからね.
こういうツールがあると助かる人は多いかもね.
あなたたちが開発したの?どうやってダウンロードすればいいの?
詳しく知りたいからHPがあったら教えてよ」


以上は後で友人に教えてもらったことで,
ボクはひたすらにADOC英語版のインフォメーションボタンを押して,
「ディス イズ!」と「オー,サンキュー!」ばかり言っていた.
そうかー,受け入れられているんだ,とは雰囲気でかなり伝わった.



隣に立っていたゼムケ先生の夫はエンジニアだと自己紹介した上で,
「本当に素晴らしいね.これは君らがプログラミングしたのかね?」と,
流暢な日本語で尋ねてきた.
いえ,レキサス沖縄という会社に依頼しました,とハキハキと答えた.



「わお!これって素晴らしいアイデアだわ!エクセレント!」

これだけは英語でも伝わった.
何度も親指を立て,しきりにADOCを操作していたので,よく伝わった.

作業療法士として,エクセレント!な体験だった.

作業に焦点を当てた実践講習会 2

もうすぐ5歳の息子が言う.

「おれさ,妹のために洋服をたたもうとしたよ.
やってないけどやろうとしたよ,エラい?」
・・・うん,エラいねぇと答えた.

あぁ,ボクも言えるようになりたい.


tomoriくん侍OTさんのBlogでも公開していますが,
依頼があってから,あーっという前に決まりました.
作業に焦点を当てた講習会2    Top-down approach





申し込みはtomoriくんのBlogから


今回,ボクはサポートに徹します.
まず,依頼を受けて担当役割を話し合って決めました.
次に,役割の遂行を最大使命として,
その任務に対して最高のパフォーマンスができるのは,
一体誰なのかを考えました.

担当者は人で決めないで,使命を達成できる確率で決めました.
今回は,地域と連携の担当を原田さんに依頼しました.
彼ならボクよりも適任です.圧倒的なプレゼンになるでしょう.



週に1~2回非常勤で出向していた通所リハで,ボクは彼と働きました.
面接場面に同席してもらい,技術と思考過程を言語化して伝えました.
何を考え,何を選択し,何を相手に伝えるかと言葉で伝承しました.


利用者が訴えた希望は実現可能かと彼が悩んでいる時は,
すぐ実現させるか,すぐOT辞めるか,選んでねと彼に声をかけました.
共に考え,一緒に選択し,肩を並べながら利用者に向き合いました.


彼はすべての利用者の,すべての希望に挑戦し,すべて実現しました.
スマートに成功したケースは1つもありませんでした.
でも,すべてが一生忘れられない感動的な体験でした.



PNF,スリングセラピー,上田法,ドイツ徒手医学にも精通している彼が,
通所リハでどのようにリハビリテーションを実践してきたのか,
どんな障壁があって,どんなサポートがあったのか,どんな変化が起こったか.
結果だけではなく過程も含めて,伝える価値があると思います.


みんなのリハビリプランで実践の一部を覗く事ができます.
「海」と検索してみてください.きっと彼の話を聴きたくなります.


彼は真剣に挑戦する,彼はクライエントを信じる,彼は自分をあきらめない.
やろうとしたけどやりませんでした,でもエラい?・・・と言わない.
やりました!と笑顔で言う.