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2014/08/25

平成27年度の介護保険を読む


1.株式会社日本総合研究所
介護サービス事業者による生活支援サービスの推進に関する調査研究事業
要支援者の自立支援のためのケアマネジメント事例集

「要介護化の原因として閉じこもりを取上げるが、その人が社会から孤立しがちで閉じこもった生活を送るかどうかは、その人のいわばライフスタイルにかかっていることが多く、そのような場合に“生きかたを変えてもらう”のは容易なことではない。その背後には、その人の長年の生活習慣、生活観、価値観、人生観などが潜んでいるからである。自立支援型ケアマネジメントを実践しようとすれば、要支援こそ難しいとみるべきなのである」

「これらの課題の解決に向けて、水分や食事の適切な摂取のための声かけ、通所サービスにおける運動プログラム、作業療法士の自宅訪問による住環境アセスメント、地域での仲間づくりなどの支援を実施した。これらの支援の結果、体調の改善や運動習慣の定着などにつながったケースや、通所サービスの卒業後もボランティアとして参加して互助的な生活支援サービスにつながっているケースも見られた」

私見メモ:平成29年度から始まる新しい総合事業に向けての準備と思われる.虚弱,独居,要支援の高齢者支援のため介護保険以外の資源を活用する計画だが,どの専門職が介入するのか予測する必要がある.作業療法士は強みを活かせるかもしれないが,そのためには根拠を示さなければいけない.地域で活躍している作業療法士が多くない現状では,情報と成果を集めるのに時間がかかりそう.おそらくすでに協会は動いていると思う.


2.株式会社日本能率協会総合研究所ヘルスケア研究部
平成25年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助事業
地域における生活支援サービスのコーディネーターの育成に関する調査研究事業報告

「地域における環境整備においては、市町村が中心となって、地域のニーズと地域資源のマッチングなどを行うコーディネーターの配置や協議体の設置等を通じて、生活支援サービスを担う事業主体の支援体制の充実・強化を図ることが求められている。また、市町村における生活支援サービスのコーディネーターの配置にあたっては、研修カリキュラムやテキストの整備を通じて、全国で一定の人材水準を確保することが重要と考えられる」

「コーディネート機能の必要性は以下の通り.高齢者等がサービスの担い手となるよう養成し,支援を必要とする高齢者の支援の場につなげる.生活支援サービスを行う事業主体間のネットワークを構築する.地域ニーズと地域資源のマッチング.多様な関係主体間の定期的な情報共有や連携・協働による取組を推進」

私見メモ:施設ケアマネ不要論が議論され,地域担当者会議の簡素化に向けて進む中,新たなコーディネート職を創り出そうとしている.どのような条件を満たせば参入できるのかを見極め,今後どこまで役割を担うのか予測しながら対応を考えたい.


3.独立行政法人国立長寿医療研究センター
平成25年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助事業
高齢者の自立支援に向けた身体活動向上のためのポピュレーション・アプローチの方法に関する調査研究事業報告


「①身体活動量のモニタリングを 3 軸加速度センサー付き身体活動測定装置 (活動量計) によって行い 、 評価システムを開発する.②結果フィードバックを地域薬局で実施し 、 薬剤師のカウンセリングを受けることで身体活動量の向上のための継続した取り組みが可能なモデルを構築し、 その効果を検証する。 このモデルが確立出来れば、 安価で実施可能なポピュレーション ・ アプローチの具体策を提示することになり、 国庫補助協議を行うにふさわしいと考える」

「ベースラインの歩数、中強度以上の身体活動、および座位行動を従属変数、性別、教育年数、認知機能、抑うつ状態、主観的健康度、日常活動能力(NCGG-ADL)、歩行速度、握力、および椅子立ち座りテストを独立変数とした t 検定と、年代を独立変数とした分散分析を行った。また、t 検定およびの分散分析は対象者全体の分析とともに、年代および性別で層化した層別解析を実施した」

私見メモ:介護保険サービスの質的評価を見直すつもりかもしれない.要介護度ではなく活動量を客観的に測定しようとする試みは,今後さらに増える可能性がある.参加,活動レベルでの変化を目標としている作業療法士は,社会に貢献できる機会かもしれない.


4.一般社団法人日本リハビリテーション病院・施設協会
平成25年度老人保健事業推進費等補助金事業
リハビリテーション専門職の市町村事業への関与のあり方に関する調査研究事業報告


「リハ専門職の市町村事業への関与に関するアンケート調査:回答のあった市町村の約60%に市町村事業へのリハ専門職の関与があり、その意義や効果についても一定の評価がなされていたが、市町村に勤務するリハ専門職は少なく、派遣が必須」

「日本リハ病院・施設協会会員に対する市町村事業への関与についてアンケート調査:派遣条件としては対価報酬への期待があった。今後の市町村事業へのリハ専門職派遣については半数以上の会員は積極的な関与の意向があり、リハ専門職の資質向上や人材育成のための研修会開催が必要との要望があった」

私見メモ:リハ専門職は地域に必要とされているが,人件費と介護報酬が割に合わないと参入する施設,機関は見込めない.また,参入したとしても地域の実情ではなく病院のやり方で対応した場合,成果を出せるのか懸念もある.地域リハについての卒前,卒後教育を見直す余裕もなく.現実が迫ってきている.ADOCなどの評価ツールを活用することで,課題が軽減する可能性もあると思う.


5.公益社団法人 全国国民健康保険診療施設協議会
平成25年度老人保健事業推進費等補助金事業
リハビリ専門職の地域包括支援センターにおける介護予防・日常生活支援総合事業への関与に係る調査研究事業報告


「新しい総合事業(地域リハビリ活動支援事業)にリハビリ専門職の技術を活かすためのメニューリスト及び参考事例集(略称:メニューリスト)」として完成させた」

「運動器に関する質問項目の中では階段の昇降や歩行などの項目ではなく、転倒不安に対する項目への該当数が減少していた。これは、リハビリ専門職の介入によって望ましい動作・活動の範囲が明確になったことで、転倒への不安は解消されたものの、依然として階段昇降や歩行など実際の生活動作の改善にまでは至っていない事を示しているのではないかと考えられるが、これについては実施期間が短かったことが影響しているのではないかと推測する」

「地域の中で行う業務に従事した経験のない若手職員に対し、地域づくりの視点を教育する統一的な制度はこれまでなく、先輩から後輩への現場研修(OJT)を中心に各医療機関の工夫によって教育が行われてきているのが現状である。このような方法では医療機関や自治体の取組み姿勢によるばらつきが発生する上、時間を要する教育方法でもある」

私見メモ:みんなのリハプランと同じシステムかと思ったが,判断チャートのような仕組みらしい.地域で活躍する専門職の技術,知識レベル格差を埋めるために有効かもしれない.チャート化すると画一的な支援になる危険もあるが,チャートをベースにして個別的な支援計画を追加することで解決するかもしれない.もし作業療法士が活用するならば,作業療法の専門性を活かした目標,支援メニューが必要と思う.


6.一般社団法人 日本作業療法士協会
平成25年度老人保健事業推進費等補助金事業
医療から介護まで一貫した生活行為の自立支援に向けたリハビリテーションの効果と質に関する評価事業報告Ⅱ


「生活行為マネジメントは,対象者個々の「したい」・「望む」生活行為の把握からはじめて,それを阻害している要因を分析し,それがよりできるように支援するものである.それゆえ,機能訓練のように介護費用の削減に寄与しない終わりなきサービスとは一線を画すものであると考えられていた.しかしながら,生活行為マネジメントの使用も,対象者の24時間の生活行為を顧みず,対象者の望む生活行為のみに特化してサービスを展開した場合,要介護状態は不変であり,地域包括ケアシステムへの貢献が制限されることが明らかになってきた」

「生活行為マネジメントは対象者の望む生活行為から解決を図るというトップダウンアプローチの全体像を有しながらも,活動と参加領域では,ADLやIADLが作業参加の基礎をなすというボトムアップ的な考え方も内包することとなった」

私見メモ:方向転換というより,現実に合わせて柔軟に変化したように見える.漫然と目標も目的もない機能訓練が数年,時に10年以上も提供されてきた現状に問題はあるが,その反動で機能訓練への批判が強過ぎる感が以前はあった.今回の改変により現実的に実現できるシステムを目指そうという意思が伝わった.


7.三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
平成25年度老人保健事業推進費等補助金事業
地域包括ケアシステムを構築するための制度論等に関する調査研究事業報告


「高齢者の自己決定においては,高齢者を取り巻く環境も大きな影響を与える.例えば,住み慣れた地域での生活の継続を望む高齢者がいても,その生活を支える体制が地域の中に構築されていなければ,本人の本当に望む選択は行えない.また,体制が構築されていたも,サービスやサポートの組み合わせ方や効果的な利用方法が高齢者本人に伝わっていなければ,適切な選択は難しい.つまり,高齢者の尊厳の保持のためには,その意志を尊重するための支援体制の構築と適切な情報提供,意思決定支援が必要である」

私見メモ:この資料はまだ読みかけなので何とも言えないが,この提言に納得した.言葉で説明できなかったことを,わかりやすく表現してくれている.人的環境が高齢者の意思決定に強い影響を与えているのは,良くも悪くも事実だと思う.


2014/08/05

理想と現実

むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、
ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、
まじめなことをゆかいに、ゆかいなことをいっそうゆかいに
井上ひさし


先日,ついに齋藤佑樹さんの講演が沖縄で実現した.
齋藤さんの話は伝統的で難解なことを軽快に伝える.
軽快ではあるが,軽薄ではない.
臨床で積み重ねた葛藤と誇りが垣間見えるから,言葉に重みと厚みがある.






たとえば,
効率的で効果的なフットボール戦術を知っている人が,
必ずしもサッカーが上手いとは限らない.

ボールを蹴る運動力学やフットボールの歴史や文化を知っている人が,
サッカーが上手いとは限らない.
サッカーをやっているとすら限らない.

また,一流プレイヤーが指導者として優れているとも限らない.
ゲームの流れを読み取る感覚は鋭くても,
他の誰かに伝えることが優れているとは限らない.






齋藤さんのメッセージは,理想と現実を結びつけようとしている.

理論を知らないのは計画性に欠けており,成りゆき任せで責任感が伝わらない.
実践にこだわず理論を追い求めるあまりに,現実から加速度的に離れてゆく.
という批判の応酬は聞き飽きた.

理論か実践かという二極論ではなく,
どっちでもイイじゃんという薄くて浅い結論でもなく,
現実的に実現可能な方法論を般化しようと努める過程にこそ,未来がある.


理想と現実を結びつける.

それは理想かもしれないけれど,
誰もが求めている現実でもある.








11月,福岡で現実と理想を結びつけたプレゼンをします.