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2016/11/15

クライエントと職場とOBP ④

リリース前にADOCの学会発表をしたのは、
6年前の仙台だった。
誰も来ないかもしれないと覚悟していた。
はじめに来てくれたのは,
メールでやり取りしていた
齋藤さんの部下だった.
嬉しかった.

先人たちが積み上げた理論に基づく実践、
思い切った実践によって紡いできた人脈、
人脈でつながった人々からの承認。
失うのは悲しく、怖い。
でもそれ以上に、
まだ会っていない人に逢いたかった。

自身の孤立よりもクライエントの自立を、
感傷よりも真実を、
しがらみよりも自由を、
リスクよりも利益を選択できる人に逢いたかった。
そう思えるまでに、
あまりに迷走し過ぎた。
だから、近道を伝えたかった。

悲しいのは理解されないこと。
悲しいのは認められなかったことではない。
悲しいのは自分が適応できないこと。
自分をあきらめること。

怖いのは終わりが見えないこと。
怖いのは思い通りにいかないことではない。
怖いのはクライエントとの約束を、
守れないこと。
自分を信じれないこと。

たったひとりの事例で変わる、
もう元には戻れないほどに。
この経験は共有するだけの価値がある。

嬉しいのは認められたことよりも、
伝わったとわかること。
嬉しいのは自分は変われると、
自分に期待し続けられること。
終わりが見えなくても怖くない。
思い通りにいかなくても悲しくない。
自分を信じれる。

たったひとりの事例でわかる、
ひとりではなく共に進む仲間がいる。
あらゆる職種で職場に、地域にも、全国にも。
この経験は新しい価値観を伝播する。


テーマ:クライエントと職場とOBP
日 時:平成29年1月14日(土)10:00〜15:00(9:00受付開始)
会 場:仙台青葉学院短期大学長町キャンパス
講 師:上江洲聖(日赤安謝福祉複合施設)
    齋藤佑樹(日本保健医療大学)
参加費:無料(先着100名)
主 催:日本臨床作業療法学会 第4回学術大会
その他:日本作業療法士協会 生涯教育基礎研修に該当します(1ポイント)



2016/09/15

第50回日本作業療法学会 in札幌の旅行記





ホタテ貝は泳ぐ.ヒトデに襲われた時,閉殻筋を収縮させて海水を勢いよく噴き出し,
反作用によって1m以上も水中を跳ぶ.
危険を感じた時に殻を閉じず,開いて命を未来へとつなぐ.


1.日本臨床作業療法学会モーニングセミナー






延べ人数8,000人が参加する日本作業療法学会で,5つの学会がモーニングセミナーを担当.
最も小さい200名キャパの会場にて,発起から3年しか経っていないボクらは
若者らしく挑戦する意味で,テーマを「生活行為マネジメント,熟考」とした.
緊張のあまり開演10分前にトイレのため離席して戻ると,
会場床に座り込む参加者があふれたので入場制限となっていた.
「ちょっとだけ壇上で話しますぅ」と交渉してようやく入場.

大先輩方が前方にずらりと並ぶ中でも理事のみなさんは堂々としており,
古典的なスタンスを保ちながらも自由な視点で持論をスマートに展開した.
全体として完璧だったか迷いはあるけれども,最善であったように思う.
心配し過ぎることよりも,ビジョンの共有を楽しむことができた.
温かい雰囲気を作って頂いた参加者と運営者のみなさんに感謝.



2.作業で結ぶマネジメントの書籍販売開始





事例本の発売日に始まった企画会議から2年が経過して,ついに販売が開始.
講演や学会発表の後に挙がる質疑で最も多いのは,
あなたのように私はできない,私の環境では無理,私でもできる方法を教えて.
というものだった.誰かが何をどうやって目標を達成したかをしっかり検証すると,
彼らは本当に苦労しているし,順番に段階を踏めば自分にもできる.
と思ってもらうことにマネジメント本の存在意義がある.希望が届くといいなぁ.
多忙にも関わらず熱い原稿を書いてくださった執筆者のみなさん,ありがとうございます.


3.口述発表

マネジメント本の原稿をそのまま発表.
他の演者も悩みながらクライエントに真摯に向き合っている臨床が伝わった.
理論や学問,研究を追究することは実践家として必要な姿勢だけれども,
クライエントに向き合っていなければ迷走し,
迷走してることにも気づかずにクライエントから加速度的に遠のいてゆく.

クライエントから離れず,現状の臨床力と思考力に満足せず前進し,
過不足なく自身を評価できる方々と協議できた経験は貴重だった.
新しい視点とあきらめない臨床を共有してくれた演者と座長の籔脇さんに感謝.



4.作業でシリーズ3作目の企画会議

次回は編集に関わらないのだけど好意に甘えて齋藤さん,澤田さんと同席.
友利くん,京極さん,竹林さんの描く未来ビジョンにただただ圧倒された.
早く読みたい!と子供が駄々をこねるように連呼した3時間だった.
未来が効率的に効果的に変われる可能性を感じた.
医学書院の北條さん,同席させていただいたみなさん,ありがとうございます.



5.作業療法定義改定シンポジウム






設立から50年が経過し,7万5,000人の作業療法士によって成り立つ作業療法士協会.
作業療法の定義改定という歴史的な改革の経過報告.
1,000席の会場がだいぶ埋まった状態で友利くんが協会長らと壇上でプレゼン.

インターネット上で「豆腐は白い」って書くと,「白くない豆腐もあります」
「白い豆腐が食べられない人もいるんですよ!」「私の豆腐は白くありませんが」
「厳密にいうと薄いベージュです」「豆腐は黒くあるべきです」「豆腐信者乙」
「豆腐主義者め」「豆腐とはお前自身だ」などのリプがきます.

というツイートが昔に流行ったのを思い出したが,
会場から挙がった意見は紳士的で,建設的で,開かれた視点に基づいたものだった.
多種多様な立場,価値観を持つ会員の意見を集約して最大公約数を模索する仕事は,
想像を超えたプレッシャーと心遣いであったと思う.
前日,勝手に部屋で寝た上,イビキで睡眠不足にしてしまった友利くん,ごめんなさい.
あらー,許すの?寛容だね,ありがとう.



6.小樽臨床作業療法研究会





三崎さん,白井さんに恩返しをするため謹んでお受けした講演.
いつものように友利くんがOBPに関係する理論と根拠を,続いてボクは実践を担当.
安定の友利くんは深く広い視点で作業療法の未来をわかりやすく紐解いてくれた.
ボクの構成はマネジメント本に合わせて編成.熱くなりすぎて珍しく揃ってタイムオーバー.
講演後,若い男性が話しかけてくれた.

「作業療法に魅力を感じなくなって,もう辞めようと思っていました.
でも沖縄で開催された第2回日本臨床作業療法学会に参加して,変わりたい!変われる!と思ったんです.
臨床で勇気を出して動き始めて,今年の3月に東京で開催された第3回学術大会で発表しました.
しかも職場の仲間も一緒に参加することができました.
これからもっと変わっていきます!ボクを見ていてください」

作間さん,ボクのやってきたことに意味を与えてくれて,ありがとう.






困難な状況において,殻を閉じてしまっては何も変えられない.
閉じているのは環境ではなく自分だという事実に向き合い,揺れる感情を受け入れよう.
変われる人は変わる才能があるのだという思い込みを否定して,
才能は行動によって変えることができると信じよう.
より明るい方へ自分をひらいて,跳ぶように進もう.



2016/08/14

マネジメント本が変えること

ボクの後ろを歩かないで.
導かないかもしれない.
ボクの前を歩かないで.
ついていかないかもしれない.
ボクと一緒に歩いて,友だちでいてほしい.
アルベール・カミュ


事例本の発売日からマネジメント本の企画会議は始まっていた.
いつかこの日が訪れることは5年前から知っていた.
tomoriくん,同僚と毎日のように話し合い続けてきた.



問題ではなく,目標に焦点を当てた思考や議論をいつも心がけよう.
OTは集団力動と行動心理学に関する知識を持っているので,
個人や組織の迷い,対立に貢献できることを知ろう.

もしも上手くいかないことがあったら,
問題を解決するために考える機会をもらったと考えよう.
批判や否定をされて傷ついて泣きたい時は ,迷わず泣こう.

でも感情的に反撃することはやめよう.
相手がどんな経験を重ねて身につけた価値観なのか想像しよう.
争うのではなく,相手が望んでいることができるように貢献しよう.

組織がほんとうはやりたいと思っている仕事を見つけよう.
それを実現するために,自分は何を貢献できるか考えよう.
巡りめぐって自分が理想とする仕事に結びつくことをイメージしよう.



そのために組織へ合わせて自分の役割と技能を適応させよう.
妥協もしよう.できること,やるべきことも大事にしよう.
ゆずれないことがあれば,それをはっきりさせよう.
でも,誰のためか,何のためか,すべてにおいていつも考えよう.

変えたいと思うことがあれば,変えられると信じよう.
自分とクライエントと組織は変わることを望んでいて,
変わるための能力を持っていると確信しよう.

自分をコントロールして,組織に貢献していれば目標は実現するよ.
この前,おでん屋を開いたよね.
5年後には毎週できるようになっているよ.



そしてね,変わるまでのプロセスを多くの人と共有しよう.
共有できれば変化を起こせる人が増えて,新しい出会いも増えて,
互いに影響を与え合って視点や技術をボクらは進化することができる.

だから今,考えていること,感じていること,やっていることを記録し続けよう.
臨床で悩んでいる全国の作業療法士たちのため,
共通する問題と理想の仕事がある組織のため,新しい当たり前を共に創ろう.

組織を変えようとするのではなく,
組織のために自分を変えよう.
自分が変われば組織は変わるし,組織が変われば自分もまた変われるよ.



9月9日から札幌にて開催される第50回日本作業療法学会で,
医学書院よりマネジメント本(通称)の販売を開始.
学会最終日,小樽臨床作業療法研究会でこの5年間のすべてがわかります.

2016/07/13

高齢期作業療法を考える会 in 浜松

先日,静岡県浜松市で高齢者作業療法を考える会の研修会で,
介護保険施設における作業療法実践について臨床家として話す機会を頂いた.
会場入り口で参加者らしき方に何処からと尋ねられ,
沖縄ですと答えたら意欲的ですねと褒められた.嬉しかった.






前日,高次脳機能障害者の就労支援NPO法人えんしゅうnet
ピアサポート事業としてのナイトサロンに見学者として参加させていただいた.
報告書や議事録では読み取れない現実の厳しさと希望があった.
事業を継続するために成果を追求し続ける姿勢には,
臨床家としての情熱と運営者としての責任感があった.

さて,当日はえんしゅうnet.の理事であり,
研究会の世話人でもある鈴木達也さんの挨拶からはじまった.
まず京都大学の小川真寛先生は認知症高齢者の作業療法について講話.
認知症をもつ人の行動背景と潜在ニーズについて,
作業療法理論とパーソンドセンターケアの視点から解説.
Graffらの研究もわかりやく紹介し,
支援戦略について新たな道を示した.

神奈川県立保健福祉大学の小河原格也先生は老健の作業療法がテーマ.
施設入所の長期化による役割や存在価値の喪失感が問題と熱弁.
臨床時代の経験として,作業活動を手段とした地域参加を紹介.
利用者の主体性と社会貢献を主軸に,集団力動とマスメディアを活用.
重要なことは活動の形態ではなく,意味であることを強調した.



同じく神奈川県立保健福祉大学の長山洋史先生が医療経済と実践についてプレゼン.
俯瞰的な鳥の目,注意深い虫の目,未来を読む魚の目で臨床を考えようと提案.
費用効果は施設ではなく,利用者,家族,職員そして国民のためにあると断言.
高齢化率を考慮した上で,効果と費用のバランスへの課題について,
社会存続を実現するために資源を効率的に活用して解決しようと説いた.

一歩踏み込んで,世界的にみて作業療法は費用効果的かと問いを投げ,
システマティックレビューの紹介,メタアナリシス概要と領域ごとに成果紹介.
そして長山先生の研究,意味のある作業の支援と健康に関する老健RCT.

老健入所高齢者は
ADOCを用いたOBPによって
通常の作業療法と比較して
ADLやQOLなどに効果があるか,
費用効果的であるか

結果と解釈は長山先生に問い合わせるか論文の精読に委ねるとして,
研究命題と手法から日本国民の未来に挑む覚悟を感じた.
研究者は臨床家よりも臨床家だと,あらためて確認した.



研究者は社会的な責任よりも知的好奇心に突き動かされる.
この個人的なイメージは5年で変わった.
関わってきた研究者たちの影響だろう.

知識の生産,蓄積,活用を,
自分と研究者共同体の内部だけで自己完結して満足する人もいるだろう.
しかし作業療法という領域においては,他を知らないので想像だが,
研究活動の成果の恩恵を受ける人々の存在ありきだと思う人が多い.

わかりたい,おもしろいという欲求を持つ人だけではなく,
資金提供者への義務達成としての道義的責任もあるだろうが,
社会的に良い影響を与える使命が動機にある人たちが目立つ.

作業療法の効果をさまざまな視点から妥当となる真実を追求し,
作業療法士が自信をもって確実な治療,支援を提供し,
患者や利用者および関係者が利益を得るべきという使命.



高齢者の障害内容および生活環境と歴史に多様性があるため,
支援によって生じた差よりも個人差が大きいことが
作業療法の効果判断を難しくしているかもしれない.

不確実性があるなかで研究者は成果を期待され,
一人歩きした仮説の後片付けをさせられている.
いま求められるのは臨床家の理解と行動力である.

臨床家一人ひとりが研究の情報を吟味して判断する能力,
いわゆる研究リテラシーに関心を抱くことで,
個人レベルの臨床力から政策レベルの意志や意見まで,
意思決定の質を高めるべきであろう.

研究者によってもたらされた恩恵を受けている臨床家は,
研究者を尊敬し,共に未来を創る責任を分担することは
義務といってもいい.
それは研究者の専門知識を得るということだけではなく,
協力者を求めていると知った時は積極的に手を挙げよう.


臨床家に研究者と社会が何をもたしてくれるか期待するならば,
臨床家は研究者と社会に何をもたらすことができるか考えよう.

私たちは役割が異なれど作業療法士であり,
国民の健康に貢献する医療福祉従事者であり,
唯一無二の子供でもあり,親なのだ.

しあわせに近づくための義務と責任があることを喜びに思う.



僕が一番欲しかったもの

2016/03/21

第3回日本臨床作業療法学会 学術大会メモ

インシュタインが100年前に予言した重力波の存在が証明された.
質量を持ったものが存在するだけで,空間と時間に歪みができる.
重ければ重いほどその歪みは大きくなり,
その物体が移動することで時空の歪みは変化し,光の速さで伝わる.

この変化の波を重力波と呼び,
二人が腕を組み合ってぐるぐる回るだけで発生し,

星を突き破って宇宙へ広がる.

映画インターステラーを思い出して,
「父さんだ!マァーーーフ!」と叫んでしまった.

「時間の仮定を疑わない理論の下で答えを導こうとした前提では,
再帰的で意味がない.両手を縛られたままで戦うようなものだ」
と静かに憤るマーフのセリフが忘れらない.




2016年3月18日・19日に東京工科大で日本臨床作業療法学会,
第3回学術大会が無事に開催されました.
330人の事前応募があり,大盛況となりましたこと感謝いたします.





今回は事例発表,座長,理事講演を担当し,
座長を務めた事例報告が最も印象に残った.
介入の成果としてクライエントが自分らしいと思える生活を再構築するため,
作業を経験するための機会と環境をコントロールできることに視点があった.

発表の質が高いと判断したのは成果だけではなく,
作業の特定と介入のプロセスが丁寧であったこと.
制限された環境の中でクライエントに向き合い,
チームメイトの協力を集め,より確実に目標を実現しようと試みる過程に,
抄録だけでは読み取れない覚悟を感じ取った.

何よりも自分の臨床実践を批判的に吟味していること,
十分にリスクを予測して対策した上で行動している実行力があった.
個人的にはこの2点を重要視している.



いを立て,問題を定義し,前提を疑い,固執せず,
感情的にならない批判的思考を保つこと

批判や根拠にとらわれず,確信に従って行動し,
行動によって根拠を築き上げること

2つの条件が満たされていれば,
発表は一人歩きにならない.
リレーでバトンを受け取って走り出すように,
聞き手が次々と変化を起こしながら連なってゆく.
打ち寄せる波のような変化は止められない.



提を疑い現状を肯定せず,理想を追求している300人が集った.
ひとりひとりの行動力が生み出した重力波はボクらの中を突き進んだ.
ひとつひとつの行動はひとつの目標を実現するため.
確信している作業療法の効果を確かに証明するため.