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2011/05/23

ADOCの説明2  Description of the ADOC

ADOCの説明1の続きです。

クライエントがやりたい、する必要のある、不安に思っている、「何かすること」をADOCは引き出すことが可能です。この作業についての目標が明確になれば、機能訓練や動作練習の意味づけができます。リハビリテーションの内容が全く変わってしまうことは、ほとんどないと思います。

やることは変わりないけれども、何のためにやるのか、お互いにはっきり目に見えるようになります。それは訓練や練習の動機となり、意欲を高めるかもしれません。場合によっては、やる必要のないこと、やる必要のあることが新たに発見されるかもしれません。それは効率性を高める上でも、信頼関係を保つためにも有効かもしれません。

たとえば、機能訓練を継続していた中で、退院前になって必要性が判明し、新たな動作練習を獲得しなければいけない状況になったとします。なぜ治っていない状態での動作練習をするのかと、数ヶ月が経過した後なら思うかもしれませんし、こちら側も伝えにくいです。あるいは、入浴を自立して40分費やすよりも、家族が手伝って20分で済ませ、他のことに時間とエネルギーを費やしたいと思う人がいるかもしれません。その場合、数ヶ月かけた入浴練習の時間とエネルギーはムダと思うかもしれません。予想ができたらなら、始めから教えて欲しかったと思うかもしれません。


また、「何かすること」を見えるようにして提示できれば、チームでの役割分担をスムーズすると思われます。この目標のために、この練習はあちらに、福祉用具はこちらで、と。お互いの専門性を活かす依頼ができるだろうと思っています。先輩や上司と担当者について相談をする時も、助言をもらいたい側、助言をする側、どちらにとってもメリットがあるだろうと思われます。

ADOCの特徴の1つに、セラピストの意見を提案する手順が組み込まれています。専門家として評価した結果から訓練や練習が必要なのに、本人が希望しない場合は迷ってしまうことがあります。押しつけではいけないが、言いなりで良いのだろうかと不安になることが私はありました。現実的には、どちらを優先するのか心の中でせめぎ合っていると思います。ADOCはその過程もクライエントと共有することを図り、互いに意見を出し合った上で選択した目標は、お互いにすっきりするかもしれません。責任と権利を平等に分担するわけですから、本当に対等な関係と言えるかもしれません。


つまり、ADOCは関心、興味のある作業をチェックするリストというよりも、目標に向かうためのコミュニケーションを支援します。しかも、高い面接技術や組織マネジメント技術は必要としません。かっこいいiPadが手伝ってくれます。

ADOCの説明1  Description of the ADOC


先週、依頼があって沖縄の大浜第二病院でADOCの説明会を開催しました。その時のプレゼン内容をメモに残しておきます。

精神科で勤めていた頃、いつも迷っていました。活動をいくつか提示し、希望者ごとに活動に振り分け、何か変化があればその原因を分析し、それは作業療法の成果だと自分と人に主張していましたが、何か違う気がしていました。手芸、絵画、レクゲームの活動を運営する技術が向上していくのは実感できました。でも、ただそれだけでした。

回復期リハ病棟に移ってから変わると思っていましたが、半年後に同じ感覚を抱きました。た。4人の同僚PTは15〜20年の経験があり、私の就職前は手の外科徒手的治療、ADL練習、麻痺側上肢機能訓練、福祉用具の選定や作成、退院前指導を担っており、その一部を私が引き継ぐ形になりました。リハスタッフ、医師、看護師そして患者さんに求められている役割でしたが、何かが違うと思いました。その役割は私である必要はないと思いましたが、私がやるべきことは何かわからず、こんなことで悩む必要がないようにも思いました。期待されている目の前の仕事を黙ってやればいいんじゃないかとも思いました。でも、抑えるつもりの違和感は膨らんでいく一方でした。そこで思い切って県外で働いていた同期の友人に相談しました。助けてくれ、と。


すぐに自分の病院に見学に来いと言うので、翌月に彼が勤める病院に行きました。8年前で、365日体制、早出・遅出体制、退院前訪問指導がすでに導入されていました。でも衝撃を受けたことは、退院後訪問調査でした。退院から1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後、1年後に自宅を訪問し、入院中に役に立った支援、役に立たなかった支援、やって欲しかった支援などについて聴取していました。その場に同席させてもらい、頭から足先まで痺れるような衝撃を受けました。感動と同時に、病院で自分は何をやっていたんだろうと絶望的な気持ちを味わいました。

それから、すべてが変わりました。考え方や態度の変化は、これまで周囲と自分が自分に期待していた役割や、自信の基になっていた実績を覆すもので、時にはそれらを否定するものでした。自信の源になる経験は可能な限り守りたいものでしたが、退院後に膝を合わせたクライエントや家族の人々が語ったストーリーよりも、守るべきことではないと思いました。リハスタッフや医師、看護師の期待も同じように大切だけど、1番ではないと思いました。退院後から10年、20年間を毎日生きていく人の生活が最も大切だと思いました。


それからほとんどすべてのクライエント、あるいは家族に対して担当数日以内にCOPM(カナダ作業遂行測定)やOSA2(作業に関する自己評価)で面接し、人が自分にとって大切な作業を取り戻す支援には、価値があると思うようになりました。本を読むだけではなく、ただ実践するだけではなく、読んで、イメージして、実践して、また読む。というサイクルは自然に自信を育みました。

この自信は、交流、行動、活動、動作の分析と介入で得たものよりも大きかったので、より多くの人に伝えなければいけないと思うようになりました。責任や義務のような「伝えなければいけない」が、勝手に心の中に座り込んでいました。でも、伝えても届いたような気がしませんでした。伝える技術や態度の問題もあったかもしれませんが、面接評価そのものに抵抗を示すような印象を受けることもありました。その理由は人にそれぞれでしたが、失敗経験の影響が大きいのではないかと思いました。

臨床で使い慣れた人は知っているでしょうが、これらの面接ツールは技術が必要です。この技術は体験を積まなければ獲得することはできません。これは絶対に、です。背景理論をよく理解していると、技術の獲得を手助けしてくれます。でも、参考書のほとんどはすぐに読み終えるものではなく、根気が必要です。

まず始めの一歩が大切だと思うようになりました。クライエントとの体験が、クライエントの話をほんとうの意味でよく聴くことの価値を教え、それをいつも自然にできるようにすると思いました。長くなりましたが、始めの一歩がほんとうに大切だと思うようになった経過です。クライエントの話を聴くことは大切だと感じ、もっと学びたい思ったなら、CMOP、MOHO、OS、OTIPMなど自分が好むことを学べば良いと思っています。始めの一歩です。

2011/05/17

Smile

お笑いテレビを観て泣くほど笑った。
よりも、家族と買い物に行けたよと泣きながら笑った。

そんな仕事がしたい。







良いとか正しいとかではなく、ボクはしたいと思う。
そんな仕事を希望しない人がいたら、それでいいさと思う。

希望は変えられない。

真の意味とか尊いとかでなく、ボクがしたいと思っている。
そんな仕事を希望する人がいたら、それもいいさと思う。

希望は1人で歩いていく。







ADOC

2011/05/15

話を聴く目的と目標 Hear the goals and objectives

先日、意思の疎通が困難な100歳を超えた特養ホームの入居者の
家族とゆっくり話ができる機会があった。




1.まず始めに

「固まった関節は元に戻すことはできませんが、
その予防のために多少は効果があると思われる関節を動かす訓練を
マッサージ師を中心に実施しています。」

「私が考えていることは、何のために関節が固まらないようにするか、
ということです。考えつくのは、車いすの姿勢が崩れず、痛みが生じず、
ある程度の時間を過ごすことですが、それも何のためかなと思っています」

「痛みや不快感があれば、それを取り除くことは大切なことかもしれません。
それでも、それも何のためなのかなと考えています。
痛みと不快感がなければ、もうそれですべての支援は達成したのかな、と。
そうじゃないんじゃないかなと、個人的には思っています」

「痛みがなく安楽に、滑り落ちることや床ずれもなく安全に、
車いすに座れたとして、食事の時間以外に、
受け身的に参加できる活動があればいいなと思っています。
それは高齢者だからとか、男性や女性だからとか、介護が必要だからとか、
それだけじゃなくて、この方だけの思い出とか気持ちを揺さぶるようなことが、
いいんじゃないかと思っています」

「もう聞こえてないみたいで、見えてないようにみえますが、
なんかやっぱり感じることはあるかもしれないと思っています」

「それから、ご家族が考えている、こんな生活して欲しいということを、
できないこともありますが、できる範囲内なら、できたらいいな、と。
このことは、頭と体に関する専門知識だけでは知ることができないので、
どうしてもご家族に確認したいことだったのです」

2それでは本題

「この方は、どういうことが好きでしたか。どんな趣味がありましたか」




始めに話すべきことを話さずして、いきなり本題に入ってしまって、
特に何もないですと答えたので希望なし、というのは
違うんじゃないかと強く思う。何を聴くかよりも、なぜ聴くのかが大切。

それでも特に何も思い浮かびません、趣味はない母でしたと、
ある入居者の息子さん夫婦は話した。
そこでADOC(作業選択意思決定支援ソフト)で話を進めると、
その70代の息子さん夫婦は一緒にiPadを操作しながら話した。

「あ〜そういえば自宅の庭で野菜を育てるのが好きな人だった。
花も育てていたね。何でも自分で育てる人だったよ。
会話ができた数年前は、故郷に行きたいとしきりに話していたな」

そこから、どんな人だったのかという話を詳しく聴くことができた。
詳しい話を聞いておけば、支援の内容を考える時に
妥協してはいけないこと、妥協してもよいことが明確にわかる。
これは支援する側が自己満足に陥らないために、とても大切なこと。
その話は今回の場合、話を引き出すきっかけがなければ確認できなかった。




きっかけを生み出したのは、話を聴く目的を説明したこと、
わかりやすいイラストの中から選択できたことだったと思う。

ADOC is 文脈を発見する眼鏡

2011/05/14

作業に焦点を当てた関係が始まる時 When the relationship begins with a focus on occupation


先日、沖縄の作業科学研究会に参加した。
第1クライエントは学校の校長、第2クライエントは小学校教員、
第3クライエントは児童の保護者として捉えた報告だった。




成果だけを見れて、クライエントの問題を明確化する能力があったからだと、
思う人もいるかもしれない。今回に限らず事例報告ではよくある誤解だと思う。
クライエントは始めから作業に焦点を当てた対話が可能だったわけではない。

症状と呼ばれる行動や動作よりも
意味と目的のある何かすること(作業)」に、
クライエントが注意を向けることが可能になったのは、
OTがクライエントにとってイメージしやすい方法で
作業に焦点を当てた対話を意識して展開したからだと思う。
その意図を察知する能力がクライエントにあった可能性はあるだろうが、
今回の場合はクライエントの能力に依存した成果ではないと思った。

病院や施設で作業に焦点を当てた支援関係ではなく、
障がいや症状に焦点が偏った支援関係を求められている場合、
クライエントが望むままに障がいや症状に対して向き合うことが
クライエント中心だと主張するOTがいるかもしれない。
それは違う、と今ならはっきり説明できる。




今回、クライエントが考える問題の名前をOTが確認した時、
クライエントは行動や動作(作業形態)を問題だと定義していた。
リハ専門家としてのOTに期待していたことは、具体的な解決方法だったと思う。
でもOTはその時にあえてすぐにそこには触れずに、
問題として定義した理由やその問題が解決したらどうなって欲しいのかを、
丁寧に何度も確認していた。

OTが話題の中心を意図的に作業へと焦点を当て、
その作業ができるようになって欲しい理由(作業的意味)を確認したことで、
クライエントは作業的意味について説明する機会を得ることができたと思う。
説明する過程で、気づくことやその後に考え続けることにもなるかもしれない。

その時からクライエントは作業の問題を相談できる人だとOTを認識し、
作業について一緒に考え始めることになったのではないかと思った。
この過程があったからこそ、
作業ができるようになる方法をクライエントが自ら提案することが
可能になったかもしれないし、
クライエントがそれぞれの関わる相手に対して、
作業に焦点を当てた対話をすることが可能になったのではないかと思った。

このようなクライエントの行動や態度の変化は、
誰でも望む作業ができる機会を保証することに関心があるOTにとって、
自分らしさを実感させたのではないかとも思った。
これでいいんだという安心感のようなものだったかもしれない。
この体験はOTがクライエントと向き合うスタンスに自信を与えたと思われ、
それから先にクライエントと関わる時の考え方や態度を推進する
影響を及ぼしたのではないかとも思った。




つまり、
クライエント中心や協業をする作業療法の実践を始める時には、
クライエントの知識、経験、価値観が影響を与える可能性も十分にあり得るが、
作業療法士の言葉や態度に含まれるメッセージの方が強い影響力があると思う。

OT(人)が、作業に焦点を当てた関係を促すこと(作業)で、
クライエント(環境)は変化し、クライエントの変化はOT(人)と、
作業に焦点を当てた目標への取り組む過程(作業)に、
促進の影響を与えるのではないかと思う。
これは理論というよりは、経験論からはっきり言える。

OTがクライエントにとって特別な意味と目的のある作業について知りたいなら、
クライエントが話し始めるのを期待して待つのではなく、
OTから始めないといけないと思う。
イメージと習慣がないクライエントに対して話すことは難しいかもしれない。
話を始めることができても、話を深めることは難しいかもしれない。
可能ではあるが、技術が必要であるかもしれない。
技術の獲得には知識と経験が必要かもしれない。

それならば、作業選択意思決定支援ソフト(ADOC)という
便利なツールを利用すればいいし、
同僚の誰かと練習をしてもいいかもしれないし、
失敗を恐れずにクライエントとの新しい関係を作り始めてもいいかもしれない。

はっきり言えるのは、
人の話を聞いて感動したり、博識者の解釈を教えてもらったり、
丁寧に詳しく説明された本を読むだけでは不十分だと思う。
あたりまえのようだけど、
部屋にこもってスラムダンクを読み込んでバスケがうまくならないように、
ソファーに寝ながらダイエット成功の番組観ているだけで痩せないように。

何度でも繰り返すが、
作業に焦点を当てた対話や態度(作業)が変われば、
自分が変わり、クライエントが変わる。
クライエントが変われば、そのような影響を受けて自分と作業が変わる。
変わり続ける。
きっと、変わる。
変わると信じているから、作業療法士として仕事を続けていると思う。


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2011/05/11

理想の働く場  The ideal workplace

療法士.comさんが企画するブログテーマについて考えてみるよ。
今回のテーマは「理想の職場」




結論から言えば、自分の中にある。
まず、理想的じゃない職場について考えてみた。

自分の目指す支援スタイルをクライエントと職場スタッフがよく理解し、
どこを目指すか、なぜ目指すのか、
何が必要で、何が不必要かを説明する必要がない。

自分の言葉や行動は尊重され、すべての職員の行動はすべて理解でき、
すれ違いが起きることがなく、言葉や行動の意味を考える必要がない。

業務は単純でわかりやすく、システムを考え直すことや整理する必要もなく、
改善が必要になっても上司が完璧にやるので、自分で考える必要がない。

建物がきれいで常に最新の設備が整っており、故障があっても誰かが対応し、
適切な福祉用具が必要な数だけ準備され、申請に悩むする必要がない。

みんなが自分のことを必要だと言ってくれて、誰かが必ず肯定してくれて、
人に会う必要も連絡をする必要もなく、職場以外の社会に出る必要がない。

ふと読んだ本や参加した研修会で得た新しい知識、技術、視点は、
みんなが既存のものをすぐに捨てるので、理由を説明をする必要がない。




これは自分の成長を考えると最低の職場なので、そうじゃない職場が理想的。
そういう意味では、今までの精神科病院、総合病院、OT養成校は最高だった。
過去に積み重ねてきた知識、技術、視点および人脈はすべてほとんど役立たず、
誰も助けてくれないので自分で学び、自分で考え、自分で主張する必要があり、
その過程にこそ意味と目的があり、
その過程でしか得られないことがあると信じてきた。

そういう意味では、今の特養ホームも最高だと心から思う。
いつも思い通りにならないから、いつも考える機会がある。
苦しみと悩みは避けたいんじゃなくて、
乗り越えたいと思っている自分、発見。

結論、理想の職場は自分の中にある。

2011/05/04

iPhoneファーストアプリ15  The first application


iPhoneユーザーが周りに増えてきた。
病院の看護師たちの所有率はかなり高いらしい。
Appleは電話ではなくて、新しい価値を生み出したと思う。
ADOCもそのような存在であることを、願っている。





おすすめアプリをまとめてみた。
iPhone前と後では、
ポケベルからケータイになった時、ワープロからパソコンになった時、
デジカメが50万画素から500万画素になった時、バスから自動車になった時、
それ以上の自由度と感動がある。便利で美しくなった以上の価値がある。
もう過去には戻れない。




iPnone必須アプリ。Word、Excel、動画、画像などの資料を自宅、職場、iPhoneで同期。

GoodReader
まさに神アプリ。Dropboxとの連携が最強。ネットいらず、文書整理、持ち運び楽ちん。

SYSTEM Manager
アプリを入れて重くなったらメモリ解放。サクサク動く。バッテリー長持ち技あり。

Echofon
いろいろ試したけど、iPhoneでtwitterするならこのアプリ。

MobileRSS
お気に入りブログの更新を通知、サクサク読み込み。

Downloads
YouTubeから講演、音楽PVなどを無料ダウンロード。

Instagram
簡単に画像加工。世界中のカメラ好きと画像共有。twitterとも連携。

Note & Share
メモを即時にEvernote、Dropbox、twitter、googleドキュメントに同期。

医療動画
医療福祉系の人なら即買いの動画共有アプリ。ADOCの説明動画も登録。

Sleep Cycle
睡眠パターンに合わせて起こしてくれる目覚ましアプリ。目覚めが全然ちがう。

myFilm
一眼レフのようなにピント絞りなどの加工が簡単にできる。

Translator
短文の英訳、和訳は、メールなどでけっこう使うので重宝。

CalenGoo
googleカレンダーのiPhone版。書きやすさ、閲覧方法の自由度、同期速度すべて良い。

Evernote
情報やメモをどこでも保存、何でも保存、アクセスと検索機能は最良。

Amazon.jp
好みの音楽、小説、PC周り小道具を雑誌、テレビ、サイトで見つけたら、即検索、購入。



2011/05/03

人を縛らないことよりも、その先のこと。 Than to be arrested, that's ahead.

昨年、身体拘束廃止の研修に参加した。
沖縄で身体拘束について現場の人にインタビューを何十年も続けてきた、
フリーライターの方が講師だった。

講師は強いメッセージを放った。
縛られた人はこう思う。

あ〜自分はついに人に縛られてもいい人間になったんだ、
そこまで落ちたか、そんな人間になったか、と。

司会を担当したOTのy先輩は小さい声で強く言った。
縛る人はこう思っている。

あ〜自分はついに人を縛る人間になったんだ、
そこまで落ちたか、そんな人間になったか、と。

責めているわけではない。
縛られたのは身体だけではない。
救おうとしているのは、縛られた人だけではない。




急性期病院に勤めていた頃、身体拘束の実情はひどかった。
看護師にとって転倒と転落を防ぐことは、
最大使命と思っているように見えた。
シーツで体幹と車いすを巻くように縛り、
下から逃げられないように包帯でY字に縛り、
廃車から抜き取ったシートベルトで車いすに固定し、
鳥かごのような乳児用ベッドに押し込め、
安全と安心を提供していると胸を張っている人もいた。

言葉で説得しようと思っても、
教科書に書いてあるような理想と現実は違うのよ、
責任を取るのはリハビリではなくて看護師だろ、
と返されてしまえば、そこから話し合いはできない。

だからこそ、転倒・転落の報告書を分析して、
縛らなくても大丈夫だよということを証明する必要があった。
なぜなら、トップダウンやルールによって
縛ることを禁止できたとしても、その理由がわからなければ
きっとどこかで同じ過ちが起こるだろうと思っていた。

でも、もっと大切なことがあった。
大切なことは縛らないことではなくて、
この人がどこで、だれと、どんなことをする人だったのかという
感性を鈍らせないことだと思っていた。

娘が期待するようなピアノを弾く口厳しい母親であったり、
息子が期待するような人に甘えない買い物好きな父親であったり、
孫が期待するようなきれい好きな編み物教室を営む祖母であったり、
姪っ子が期待するような市場で人気のある漬け物屋の叔母であること。

入院する前はそのままの人であったように、
退院したら再びそのままの人であってもいいんだと、
本人と家族が思えるように今をつなぐ必要があると思っていた。
初めはあまりに届かないので絶望的な気持ちだったけど、
その考えと行動は時間をかけて確実に変わったことをよく覚えている。

絶対に何があっても縛るなとは言わないが、
縛らなかったら何ができるかは絶対に考えて欲しいと今も思う。


縛られたのは身体だけではない。
救おうとしているのは、縛られた人だけではない。

青空  Blue sky

ビンラディン容疑者殺害のニュースに歓喜する人々の姿を観て、
どうして喜んでいるのと尋ねる子供たちに、
なんて言えばいいのかわからない。





この沖縄の海と地に眠る人のうち20万人は、
粉々に殺そうと思って落とされた爆弾や、
撃ち殺そうと思って放たれた弾丸で、
自分の意志とは無関係に命を落としている。


生き抜いたオバーたちは、
ボクらにアメリカを憎めとは、絶対に言わない。
家族を失って悲しいと言うが、
復讐をしたいとは、絶対に言わない。


強さや美しさを求めるために言わないのではなく、
もっと大切なことがあるだろうと言いたいみたい。
歴史を振り返るってそんなことじゃないだろって。