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2015/02/11

第二回 日本臨床作業療法学会 学術大会 振り返り

翌日,優秀賞状の名前をクライエントに書き換え,
クライエントと職員のために授賞式を開いたと連絡がありました.
彼女はその場に彼らがいるつもりで事例報告をしたそうです.

自分に何ができるか確認するため仲間の話を聞き取り,
地域で暮らす人や自分の家族や担当しているクライエントの話を,
泣きながら朝方まで語り合ったとメールがありました.

家族のため地域の活動団体に思い切って参加した,
研究や作業療法の理論に関する本を購入して読み込んだ,
意思疎通が難しいと思っていたクライエントに踏み込んだ面接ができた,
あなたの発表を聴きてみたいとクライエントが話してくれた,
と電話やメールをたった1日でいくつも受け取りました.

出勤すると,大会に参加した学生が作業に焦点を当てた面接評価をして,
実場面の活動ができる環境を提供し,観察結果を元に丁寧な機能評価を実施し,
目標を実現するために必要な治療と支援の戦略を議論していました.
3人の学生が同時にです.


今大会は演者が参加優先の,移動不可型な分科会システムを導入しました.
質的研究に関心がある人,量的研究の経験がある人,管理運営が得意な人,
プレゼンテーションが上手い人,研究会作りに長けた人,面接スキルが高い人.
それぞれの強みを活かして貢献し合う関係作りを促すためでした.

当学術大会の存在価値はテーマや内容に独自性と創造性があり,
作業に焦点を当てた実践の発展に貢献する研究の共有です.
今回の経験を通して学術性における課題が明確にわかりましたが,
団体として次のステップに上がる時期であることを示唆していると解釈しました.

第二回大会の目標は,第三回大会に見据えていました.
今回の経験と関係が価値のあるものだったかは,1年後にわかるでしょう.
目標に向けて私たち学術団体も,参加者と共に前進し続けたく思います.



悩みながらも大会で演題発表をしていただいた皆さま,
すべてを受け入れて快くファシリテーターを引き受けていただいた皆さま,
多忙な中で1年間に渡って運営の手助けと助言をいただいた学会理事の皆さま,
深く感謝の気持ちを申し上げます.

そして,運営会議は1回のみ開催と決め,メール会議のみという強行を許し,
マンワンで自由でだらしない私を見守っていただいた運営委員の皆さま,
ほんとうにたくさんの心配と苦労をかけました,心より感謝を申し上げます.

メンバーは過去の研修会参加者リストと学会抄録を読んで私が選出したので,
ほとんどが大会当日に初対面となり,混乱や戸惑いもあったと思います.
共に未来を創りたいと思えるメンバーであることを再確認できました.



最後に講演スライドの一部を引用して,大会の振り返りとして記録します.






あなたが望むなら,彼らを肯定してください.
そして彼らのため,自分に何ができるのかを考えてください.
あなたにしかできない支援を探し,行動を起こしてください.






あなたの行動が変われば,
環境と人は互いに影響を与えながら,変わり続けていきます.
それは作業療法の理論が示しています.

変わるはずがないと思っても,
まずやってみてください.
変えられると気づくことが,他の何よりも大事です.






同じ価値観と行動を経験をした人たちと共に,
新しい当たり前を創るという目標.

作業と環境を変えれば,
あなたと私たちは必ず
変わることができます.




ありがとうございました.

2014/12/26

2015年1月11日 特講:その人らしさを取り戻すリハビリテーション in 和歌山

和歌山クリニカルリハビリテーション研究会

今回,友利さんが作業についての理論とエビデンスについて講義をします.
その後,ボクは実践について講義をしますが,メインはその後にあります.
和歌山の寺下病院に勤める若手,沖田直子さんと坂井優介さんの事例報告です.

友利さんと6ヶ月かけて介入をサポートしましたが,ボクらが助言したことは3つです.
「OTはどうしたいのか」,「どうすればできると思うのか」,「イイね!」
経験年数に関係なく私たちに意志があれば,
自分にも環境にも変化を起こせることがわかると思います.

今年は作業で語る事例報告が発売されました。
おかげさまで2回目の増刷になりそうです。
事例を書いているのは20〜30代の作業療法士です。

日本臨床作業療法学会が発起した年でもありました。
第二回大会は沖縄で開催されますが、演者の多くは若手です.
誰でも参加できる一般申し込みは12月31日が締め切りです.

学会申し込みはこちら

講習会や学会に参加して体験することは手段です.
目的は自分と社会のためにできる目標を探し,
目標に近づくためのルート確保ができることです.




和歌山の講義でボクが予定している事例報告メニューを紹介します.

①急性期から回復期(COPM,カナダ作業遂行モデル,上肢機能訓練)
交通事故によって遷延性意識障害と診断された児童の地域生活に向けて,母親へ面接して目標設定した事例

一生寝たきりだから施設に入れなさいと医師に言われた事例が,6ヶ月後には自宅に帰ってスプーンを使って自分でご飯を食べれるようになりました.それ以上の成果は,家族がこれから先に何があっても不安なく生活を共に送れると話したことです.私の人生を変えた事例です.

②回復期(作業科学,役割再獲得モデル,家族支援)
重度の遷延性意識障害が残存したクライエントが母親としての役割再獲得できるよう,家族による外出支援を実践した回復期リハ病棟の事例

回復期リハ病棟で最後に担当し,NSTとシーティングの技術で作業的存在に近づけたと思われる事例です.毎週,介護タクシーを使ってスタバで家族と嚥下訓練を繰り返し,10週間後には自宅への外出練習で家族が作ったご飯を食べることができました。

③通所リハビリテーション(OSA-Ⅱ,AMPS,人間作業モデル)
発症から7年が経過した片麻痺事例の主婦役割再獲得に向けた支援

週に1回だけ勤めていた通所リハで,介入して3ヶ月後にOSA-ⅡとAMPSが向上した事例です.車いすの生活は変わりませんでしたが,「あきらめていた役割を取り戻せた」と涙目で語っていました.作業遂行レベルが変化すると環境からの期待も変わります.

④通所介護(ADOC,作業科学,就労支援)
15年ぶりに仕事を再獲得できたと感じれることを目標にした通所介護の支援

週に1〜2回の介入で3ヶ月後に本人が選択した作業の満足度が向上した事例です.重度の失語症と運動麻痺は残存していましたが,事例にとって大事な作業を共に発掘できました.支援することが必然的に決まっていく過程にこそ,作業療法らしさがあります.

⑤特養ホーム(ADOC,訓練計画書作成,チーム連携)
入居から10年が経過したクライエントに対する価値ある役割再体験の支援

いわゆる10年おでんです.動画はよく流しますが,評価から介入までの過程はあまり報告したことがありません.これは同僚の介入で、介護保険サービスにおいてチームと連携して作業療法を実践するためのヒントが得られると思います.

⑥特養ホーム(ADOC,認知行動療法,家族連携)
無断離棟を繰り返す認知症高齢者の役割再獲得に向けた支援

こちらも同僚の介入で,問題行動と呼ばれている行為の意味と目的を丁寧に探って計画的に支援した事例です.特養ホームは長期的に関わるため作業遂行レベルが低下する場合も多く,作業療法の成果は何をもって測るのかと悩む時にいつも思い出します.


近畿地方のみなさんと共に作業療法を模索できる機会が今から楽しみです.

2014/12/18

日本臨床作業療法学会の参加応募は,今月末が締め切りですよ




日本臨床作業療法学会 参加申し込み


演者,共同演者以外でも,
すべての希望者が参加できます.

なお,各セッション間の移動はできませんが,
ファシリテーターの講義が2〜3時間組み込まれています.
各セッションの代表者1名の発表は,2月8日(日)の全体会でも視聴できます.
発表形式は全て口述の15分で,分科会の質疑時間は各セクションで異なります.


セッション①急性期で作業に焦点を当てる
ファシリテーターは三﨑 一彦(済生会小樽病院)さんへ変更しました.
急性期でOBPは可能か?
その問いに答えるのは三崎さんが最適だと,理事会で意見が一致しました.
急な依頼にも関わらず快諾いただき,感謝です.
三崎さんのTwitterから勝手に抜粋して紹介します.

「意味ある作業を可能にするために,治るものはきちんと治す技術も,
病院OTには必要です.OBPは機能訓練しない,という狭い見方ではなく,
医学モデルと作業行動モデルの融合がこの国の作業療法だと思うのです.
大切なのは Occupation centeredです」






セッション②回復期で作業療法に焦点を当てる
ファシリテーターの齋藤佑樹さんは2日目から参加いたします.
勉強会としては異例の規模と影響力を持つ湘南OT交流会の藤本一博さん,
事例本の齋藤佑樹さんがファシリテートと特別講義を担当してくれます.

理論と実践を結びつける2人とじっくり話し合ってください.
私は回復期リハ病棟で勤めていた頃,どこかに仲間はいるのかなと思ってました.
全国にたくさんいました,こんなにも ↓






セッション③作業療法に焦点を当てた上肢機能訓練
作業療法の理論に基づいて学会で発表するようになった頃,
機能回復の可能性をあきらめている,と批判されることがよくありました.
効果の根拠もないのに毎日同じ治療を繰り返したままで退院させるなよ,
と私は返していたので,いつも険悪な雰囲気の議論ばかりでした.

ファシリテーターの竹林崇さんに出会ったのは最近ですが,
彼の講義を受けるとハンマーで頭を殴られたような衝撃を受けます.しかも,2回.
1つは上肢治療効果の根拠を示せるリハビリテーションが確かに存在すること.
2つめはクライエントの行動変容を目的にしているため,よく話を聴いていること.
作業と機能は対立しません,両立できます.むしろ,両立せざる得ません.







セッション④精神症状ではなく作業療法に焦点を当てる
私は精神科で勤めていたころ作業療法がわからず,いつも不安でした.
仲地宗幸さん,坂本 将吏さんの所属は,沖縄の株式会社とNPO法人です.
しかし県外の精神科病院で勤めた臨床経験の方が長く,管理者の役割も担っていました.

彼らは精神科病院や地域資源の現実を,隅の隅から裏の裏まで知っているのです.
その環境で理想を求めて時に喜び,時に悔しい思いをした上での,いまの職場です.
地域でその人らしい支援を日々重ねる二人の視点が,演者の背中を支えるはずです.
参加者は建設的で現実的に実現可能な議論を体験できます.





セッション⑤在宅・入所で作業療法に焦点を当てる
ファシリテーターの田村さんと私は10年前に沖縄で県作業行動研究を発起し,その後は
県作業科学研究会,県作業療法教育法研究会などを共に運営してきました.
ADOCの研究データを共に集め,OSセミナーや作業行動講習会の開催に協力しました.

テキストと論文を暗記するほど読み込み,実践し,事例報告をしてきました.
それでもわからないことばかりでした.もっと共に学べる人を増やそうと図り,
自分がより成長できる視点と刺激を与えてくれる人を探していました.

それぞれの環境や立場で作業を大事にした実践をしている人が,こんなにいます.
結果だけではなくプロセスを開いて確認することで,臨床を追体験できるでしょう.
私たちに何ができるかは,私たちが動けば見えてきます.






セッション⑥
登録演題に対応するためセッション名を変更しました.
作業に焦点を当てた就労支援→作業療法に焦点を当てた地域生活移行支援
ファシリテーターの建木 健さんは大学教員をしながらNPO法人を運営しています.

NPO法人えんしゅう生活支援netは2011年4月に設立され,
高次脳機能障害をお持ちの方を中心に自立支援法に基づく生活訓練事業や
就労移行支援事業を行う「ワークセンター大きな木」,
就労移行支援事業と就労継続B型事業を行う「ワークセンターふたば」,
就労している人と就労を目指す人たちの集い場になる就労継続事業「ナイトサロン」です。

病院や施設の中にいるだけでは見えなかったクライエントの可能性を,
参加者は共に見つけることができるでしょう.
そして地域では重要な位置を占める連携について,理解を深める機会になるでしょう.






セッション⑦子供の作業療法に焦点を当てた支援
病院に勤めながらもあらゆる現場に飛び込み作業療法の視点で組織を巻き込む山口さん,
幼稚園や小学校でADOC-Sを片手に精力的な巡回相談をひとりで継続している仲間さん.
この2人にファシリテーターを依頼するため設けたセッションです.

演者のみなさんが書いた抄録を拝読しました.
障がい,治療理論,職種の違いを超えて子供と先生,親が自ら変わっていく報告でした.
子どもに対する作業療法の新しい当たり前を,参加者全員で創る機会になるでしょう.






最後になりましたが,
急性期,回復期リハ,地域生活移行支援には学会長の澤田辰徳さん,
上肢機能と子どもには学会理事で神奈川県立保健福祉大学の友利 幸之介さん,
精神と在宅・入所には学会理事で吉備国際大の籔脇健司さんもファシリテーターします.

私はこの3人を信頼も信用もしていますが,それは友人だからではありません.
理想と現実を結びつける先駆者としての絶え間ない実績があるからです.
私たちに何ができるかを時に導き,時に背中を支えてくれます.





人は自分の意思で,自分の手と頭と心を使って体験すると,
自分と社会を知ることができる.
そこから自分と社会をより良くしようと始めることができる.
私はそう考えています.






→ 日本臨床作業療法学会 参加申し込み ←



2014/11/16

祖母が生きている時に作業療法をやりたかった

先日,お前は職場でどんな仕事をしているんだとお袋が尋ねたので,
10年おでんを観せた.
高齢者にとって最高に理想的な施設だなとつぶやいた.

浦添市で独居していた祖母は70代で沖縄市の軽費老人ホームに入居し,
2年後には併設の特養ホームへ移って6年間暮らした.
それから那覇市の特養ホームへ移り,さらに8年間を施設で過ごした.

お袋は週に4日,1日8時間通い詰めて介護をしながら,家族会の会長を務めてた.
ボクはその間に高校生から作業療法専門学生,そして作業療法士になっていた.
独り暮らしを始めてからは,数ヶ月に1度くらいしか祖母の面会にいかなかった.


どこかに連れて行こうと考えたことはなかった.
何をして欲しいと願っているのかと聴いたこともなかった.
職員に望みを聞かれたことはなかったけれど,答えることもできなかっただろう.

親父との生活は家族でも苦行なので,祖母との同居どころか外泊さえ選択肢になかった.
人見知りが激しいせいで,施設内での友人が数少ないことも知っていた.
罪悪感や無力感に似た気持ちで面会へ行き,食事介助をして帰ってきた.

庭木が冬に向かって少しずつ葉を落としていくように,祖母の身体と脳は衰えた.
言葉を失ってからは,虚ろな瞳の祖母の手をただ握って面会の時間を過ごした.
自然な老いだと感じていたし,特別な支援や訓練が必要とは思わなかった.


深く大きな褥瘡を治療するため入院を繰り返し,その度に関節拘縮と筋力低下が進んだ.
肺炎で入院中に胃瘻を造設されて施設に帰ってきたので、お袋をひどく責めた.
死んでもいいんですか,と医者に言われて断れなかったと聞き,何も言えなかった.

お袋はひとりで選択せざる得なかったし,もし相談されたらボクも悩んだはずだった.
何が正しいかわからないまま時は流れて,ある夜に前触れもなく亡くなった.
前夫との子も連れて3人の子供を,30代からひとりで育てた祖母は永眠した.

通夜で1時間ほど顔を動画撮影したが,動きがなかった.
生きている時に撮ればよかった.

話せばよかった,聴けばよかった,連れて行けばよかった,観せればよかった,
食べさせればよかった,聞かせればよかった,会わせればよかった.





厚生労働省老健局老人保健課「高齢者の地域におけるリハビリテーションの新たな在り方検討会 (第2回)」平成26年10月15日 資料2-1資料2-2より抜粋

通所リハビリテーションにおけるリハビリテーションの実施内容は「筋力トレーニング」が86.6%、「関節可動域訓練」が74.2%、「歩行訓練(屋内)」が71.2%であった。「排泄・入浴などのADL訓練」は8.2%、「社会参加訓練」は2.2%であった。 

通所リハでは維持の割合が多く、通所介護では、通所介護に通うという社会参加を短期目標としているところが多かった。いずれも、「地域社会への参加」を設定しているケースは非常に少なかった。

身体機能については、本人の52.2%が良くなると思っている一方、リハビリテーション専門職は20.7%が向上すると考えていた。日常生活活動については、本人が50.5%で、リハビリテーション専門職は15.6%が向上すると考えていた。社会的活動については、本人が32.5%で、リハビリテーション専門職は8.2%しか向上すると考えていなかった。

問題の所在:個別性が重視されず、画一的なリハビリテーションが実施されている
論点:①日常生活や人生の過ごし方について利用者の意向が引き出せていないのではないか,②リハビリテーション計画がプログラムを決めるだけに形骸化し、PDCAが実施されていないのではないか

問題の所在:具体的なプログラムの策定で、身体機能に偏った内容になる
論点:①実施するプログラムの内容が身体機能訓練を中心に実施することを前提としているのではないか,②社会への復帰や在宅での自立した生活を向上させるために、どのようなリハビリテーションをどのような専門職で提供することが効果的か理解されていないのではないか(※リハビリテーション専門職という言葉で、移動などの基本的能力を高める理学療法士、活動と参加能力を高める作業療法士、言語聴覚と嚥下摂食を改善する言語聴覚士が一括りされている)

問題の所在:①高齢者の思いに焦点を当て、本人の積極的参加を促すアプローチが実現できていない
論点:①高齢者の思いに焦点を当て、本人の積極的参加を促すための技術が具体化・体系化されていないのではないか





祖母が生きている時に,意思疎通が可能な時に,作業療法をやりたかった.
今なら祖母と自分にとって大切なことを発見して,職員や家族と共に実現できる.

作業療法をやりたい人のために、
日本臨床作業療法学会は始まりました。
第2回 日本臨床作業療法学会 学術大会演題受付の締め切りはもうすぐ.