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2016/08/14

マネジメント本が変えること

ボクの後ろを歩かないで.
導かないかもしれない.
ボクの前を歩かないで.
ついていかないかもしれない.
ボクと一緒に歩いて,友だちでいてほしい.
アルベール・カミュ


事例本の発売日からマネジメント本の企画会議は始まっていた.
いつかこの日が訪れることは5年前から知っていた.
tomoriくん,同僚と毎日のように話し合い続けてきた.



問題ではなく,目標に焦点を当てた思考や議論をいつも心がけよう.
OTは集団力動と行動心理学に関する知識を持っているので,
個人や組織の迷い,対立に貢献できることを知ろう.

もしも上手くいかないことがあったら,
問題を解決するために考える機会をもらったと考えよう.
批判や否定をされて傷ついて泣きたい時は ,迷わず泣こう.

でも感情的に反撃することはやめよう.
相手がどんな経験を重ねて身につけた価値観なのか想像しよう.
争うのではなく,相手が望んでいることができるように貢献しよう.

組織がほんとうはやりたいと思っている仕事を見つけよう.
それを実現するために,自分は何を貢献できるか考えよう.
巡りめぐって自分が理想とする仕事に結びつくことをイメージしよう.



そのために組織へ合わせて自分の役割と技能を適応させよう.
妥協もしよう.できること,やるべきことも大事にしよう.
ゆずれないことがあれば,それをはっきりさせよう.
でも,誰のためか,何のためか,すべてにおいていつも考えよう.

変えたいと思うことがあれば,変えられると信じよう.
自分とクライエントと組織は変わることを望んでいて,
変わるための能力を持っていると確信しよう.

自分をコントロールして,組織に貢献していれば目標は実現するよ.
この前,おでん屋を開いたよね.
5年後には毎週できるようになっているよ.



そしてね,変わるまでのプロセスを多くの人と共有しよう.
共有できれば変化を起こせる人が増えて,新しい出会いも増えて,
互いに影響を与え合って視点や技術をボクらは進化することができる.

だから今,考えていること,感じていること,やっていることを記録し続けよう.
臨床で悩んでいる全国の作業療法士たちのため,
共通する問題と理想の仕事がある組織のため,新しい当たり前を共に創ろう.

組織を変えようとするのではなく,
組織のために自分を変えよう.
自分が変われば組織は変わるし,組織が変われば自分もまた変われるよ.



9月9日から札幌にて開催される第50回日本作業療法学会で,
医学書院よりマネジメント本(通称)の販売を開始.
学会最終日,小樽臨床作業療法研究会でこの5年間のすべてがわかります.

2016/07/13

高齢期作業療法を考える会 in 浜松

先日,静岡県浜松市で高齢者作業療法を考える会の研修会で,
介護保険施設における作業療法実践について臨床家として話す機会を頂いた.
会場入り口で参加者らしき方に何処からと尋ねられ,
沖縄ですと答えたら意欲的ですねと褒められた.嬉しかった.






前日,高次脳機能障害者の就労支援NPO法人えんしゅうnet
ピアサポート事業としてのナイトサロンに見学者として参加させていただいた.
報告書や議事録では読み取れない現実の厳しさと希望があった.
事業を継続するために成果を追求し続ける姿勢には,
臨床家としての情熱と運営者としての責任感があった.

さて,当日はえんしゅうnet.の理事であり,
研究会の世話人でもある鈴木達也さんの挨拶からはじまった.
まず京都大学の小川真寛先生は認知症高齢者の作業療法について講話.
認知症をもつ人の行動背景と潜在ニーズについて,
作業療法理論とパーソンドセンターケアの視点から解説.
Graffらの研究もわかりやく紹介し,
支援戦略について新たな道を示した.

神奈川県立保健福祉大学の小河原格也先生は老健の作業療法がテーマ.
施設入所の長期化による役割や存在価値の喪失感が問題と熱弁.
臨床時代の経験として,作業活動を手段とした地域参加を紹介.
利用者の主体性と社会貢献を主軸に,集団力動とマスメディアを活用.
重要なことは活動の形態ではなく,意味であることを強調した.



同じく神奈川県立保健福祉大学の長山洋史先生が医療経済と実践についてプレゼン.
俯瞰的な鳥の目,注意深い虫の目,未来を読む魚の目で臨床を考えようと提案.
費用効果は施設ではなく,利用者,家族,職員そして国民のためにあると断言.
高齢化率を考慮した上で,効果と費用のバランスへの課題について,
社会存続を実現するために資源を効率的に活用して解決しようと説いた.

一歩踏み込んで,世界的にみて作業療法は費用効果的かと問いを投げ,
システマティックレビューの紹介,メタアナリシス概要と領域ごとに成果紹介.
そして長山先生の研究,意味のある作業の支援と健康に関する老健RCT.

老健入所高齢者は
ADOCを用いたOBPによって
通常の作業療法と比較して
ADLやQOLなどに効果があるか,
費用効果的であるか

結果と解釈は長山先生に問い合わせるか論文の精読に委ねるとして,
研究命題と手法から日本国民の未来に挑む覚悟を感じた.
研究者は臨床家よりも臨床家だと,あらためて確認した.



研究者は社会的な責任よりも知的好奇心に突き動かされる.
この個人的なイメージは5年で変わった.
関わってきた研究者たちの影響だろう.

知識の生産,蓄積,活用を,
自分と研究者共同体の内部だけで自己完結して満足する人もいるだろう.
しかし作業療法という領域においては,他を知らないので想像だが,
研究活動の成果の恩恵を受ける人々の存在ありきだと思う人が多い.

わかりたい,おもしろいという欲求を持つ人だけではなく,
資金提供者への義務達成としての道義的責任もあるだろうが,
社会的に良い影響を与える使命が動機にある人たちが目立つ.

作業療法の効果をさまざまな視点から妥当となる真実を追求し,
作業療法士が自信をもって確実な治療,支援を提供し,
患者や利用者および関係者が利益を得るべきという使命.



高齢者の障害内容および生活環境と歴史に多様性があるため,
支援によって生じた差よりも個人差が大きいことが
作業療法の効果判断を難しくしているかもしれない.

不確実性があるなかで研究者は成果を期待され,
一人歩きした仮説の後片付けをさせられている.
いま求められるのは臨床家の理解と行動力である.

臨床家一人ひとりが研究の情報を吟味して判断する能力,
いわゆる研究リテラシーに関心を抱くことで,
個人レベルの臨床力から政策レベルの意志や意見まで,
意思決定の質を高めるべきであろう.

研究者によってもたらされた恩恵を受けている臨床家は,
研究者を尊敬し,共に未来を創る責任を分担することは
義務といってもいい.
それは研究者の専門知識を得るということだけではなく,
協力者を求めていると知った時は積極的に手を挙げよう.


臨床家に研究者と社会が何をもたしてくれるか期待するならば,
臨床家は研究者と社会に何をもたらすことができるか考えよう.

私たちは役割が異なれど作業療法士であり,
国民の健康に貢献する医療福祉従事者であり,
唯一無二の子供でもあり,親なのだ.

しあわせに近づくための義務と責任があることを喜びに思う.



僕が一番欲しかったもの

2016/03/21

第3回日本臨床作業療法学会 学術大会メモ

インシュタインが100年前に予言した重力波の存在が証明された.
質量を持ったものが存在するだけで,空間と時間に歪みができる.
重ければ重いほどその歪みは大きくなり,
その物体が移動することで時空の歪みは変化し,光の速さで伝わる.

この変化の波を重力波と呼び,
二人が腕を組み合ってぐるぐる回るだけで発生し,

星を突き破って宇宙へ広がる.

映画インターステラーを思い出して,
「父さんだ!マァーーーフ!」と叫んでしまった.

「時間の仮定を疑わない理論の下で答えを導こうとした前提では,
再帰的で意味がない.両手を縛られたままで戦うようなものだ」
と静かに憤るマーフのセリフが忘れらない.




2016年3月18日・19日に東京工科大で日本臨床作業療法学会,
第3回学術大会が無事に開催されました.
330人の事前応募があり,大盛況となりましたこと感謝いたします.





今回は事例発表,座長,理事講演を担当し,
座長を務めた事例報告が最も印象に残った.
介入の成果としてクライエントが自分らしいと思える生活を再構築するため,
作業を経験するための機会と環境をコントロールできることに視点があった.

発表の質が高いと判断したのは成果だけではなく,
作業の特定と介入のプロセスが丁寧であったこと.
制限された環境の中でクライエントに向き合い,
チームメイトの協力を集め,より確実に目標を実現しようと試みる過程に,
抄録だけでは読み取れない覚悟を感じ取った.

何よりも自分の臨床実践を批判的に吟味していること,
十分にリスクを予測して対策した上で行動している実行力があった.
個人的にはこの2点を重要視している.



いを立て,問題を定義し,前提を疑い,固執せず,
感情的にならない批判的思考を保つこと

批判や根拠にとらわれず,確信に従って行動し,
行動によって根拠を築き上げること

2つの条件が満たされていれば,
発表は一人歩きにならない.
リレーでバトンを受け取って走り出すように,
聞き手が次々と変化を起こしながら連なってゆく.
打ち寄せる波のような変化は止められない.



提を疑い現状を肯定せず,理想を追求している300人が集った.
ひとりひとりの行動力が生み出した重力波はボクらの中を突き進んだ.
ひとつひとつの行動はひとつの目標を実現するため.
確信している作業療法の効果を確かに証明するため.


2015/10/10

福祉 is a good job(小学生向け講座:改訂版)

業務以外の仕事をする時に,何をするかではなく,
何のためにするのかを問うて即答できる人に限り,
迷わず時間と労を注ぎ込みます.

昨年から株式会社ケイオーパートナーズさんと取り組んだ,
高校生から小学生向けに向けた「福祉職の魅力と可能性」
というテーマの講演内容を少し紹介します.
takazatoさん,ありがとう.



君たちは10才だったね.
娘と同じ年だから,同じように話すよ.
今日は3つの話をするね.




まずひとつめ.
福祉に対してどんなイメージを思い浮かべるかな.
高齢者や障がい者,その他に困っている人や弱っている人に,
何かをしてあげると思う人もいるかもしれない.

すべてとは言わないけれど,それは間違い.
してあげるのではなく,自分で機会と環境を変えれるように手伝うこと,
自分で自分を変える力を一緒に育てることです.

話ができない人や考えることが難しい人の場合は,
ボクらがより良い生活のために必要なことを考える責任がある.
一緒に決めることができる人でも,そのまま従うわけでもない.

ボクらの知識,技術,経験を活かして提案をすることがある.
押し付けでも,いいなりでもなく,一緒に決めるという過程が大事なんだよ.
君たちがやっているグループ課題や部活や遊びに近いと思う.


一緒に決めることで自分が参加している感覚を尊重できる.
それにね,福祉を提供する人と利用する人の関係だけに言えることでもない.
組織やチームでも同じこと.

福祉の仕事にはいろいろあって,たとえばボクらの職場,
特養ホームという生活する場において介護士,看護師,相談員,ケアマネジャー,
事務職,栄養士,厨房職員,清掃員,そして作業療法士という,
リハビリテーション職がある.

ボクらは誰かの指示で動くわけではなく,それぞれが得意分野を活かしながら,
他の職種の強みを寄せ合ってひとつの仕事をしている.
寄せ合わせようとしても,それぞれに違う考え方やルールがあるから,
うまくいかないこともある.



でもね,違いがあることは悪くないんだよ.
ひとつの職種ですべての課題が解決できるのならいいけれど,
複雑で多様な人生や生き方を支援しようと思ったら,
いろんな特技を持った人で集まった方が,確実により良い支援に近づける.



ボクは作業療法士という仕事をしていて,好きだから軽くは見られたくないけど,
自分の仕事だけが最高とは思っていないし,できないこともたくさんある.
いろんな仕事をできる人が,たくさん集まった方が最高だと思っている.

つまりね,仕事の違いがあってこそ,より良い仕事ができる.
違いによって生まれる,すれ違いはある.これは避けられない.
その時はよく話し合って,一緒に決めることがより良い結果につながる.

だからね,自分の得意分野を伸ばすことが大事なわけ.
得意分野をさらに伸ばすためには勉強をしなければいけない.
大人になってもだよ.むしろ,君らよりも大人が勉強している.
もっと確実に,もっと早く,もっと多くの人ができるように,いつも考える必要がある.

必要がある,というと義務みたいだけど,
これは自分自身が必要だと思うんだよ.
どんな仕事にも言えることだけど,
自分を大切にしたい,楽しいと思えるのは,自分がより良い仕事をできると,
自分の行動を振り返って,自分に期待できた時なんだよ.



話が逸れてしまったかな,そうでもないけどね.
それでね,一緒に決めると話してきたけど,大事なことは何を決めるかだよね.
より良い生活に向かうってことなんだけど,よくわからないよね.

その人にとって何がより良い選択かなんて,その人にもボクらにもわからない.
だって,君たちだって,君たちが何を求めているか,何が必要かはわからないでしょ.
ひとつの正解に全員が当てはまるわけではないし,無理に押し付けるものでもない.

その人に何が必要かは,その人によく聞かなければわからない.
聞いてもわからないかもしれないけど,少なくても近づけない.
よく聞くというのは,黙って聞けばよいというわけでもない.

その人もよくわかっていない自分を一緒に探すということなんだよね.
何も困っていないよ,助けてもらっているから何でもできるよ,と答えた時に,
ほんとうにそうなのかと考えながら確認することが,よく聞くということなんだよ.




知識や経験があれば,その人に何が足りないかはわかることもあるけれど,
何を求めているかは,その人と探さなければわからない.
その人にとって,より良い生活というのはその人が生きてきた物語にある.

イメージしてみて.
自分のこと,親のこと,ばあちゃん,じいちゃんのこと.
福祉とはそのイメージを大事にしようとする仕事だよ.



さて,2つめと3つめの話はいずれまたここに書き残す.
・・・かもしれない.