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2013/01/16

まちづくりと作業療法

ちゃんくすの西上さんから頂いた年賀状への返信として,
日記を書きます.

3〜4年ほど前,いきがいのまちデイのtamuraさんが,
沖縄のある市が募集した町づくり委員会に選ばれて参加していた.
数十年,数十億のプロジェクトであったが,
市民の意見を集めるための1つの委員会だった.

何度も会議を繰り返し,意見がまとまりかけたところで,
委員会で街を歩いて現状と課題を再確認する機会があった.
ボクはtamuraさんの紹介でバリアフリーの専門家として招いてもらった.

ボクは持参した車いすで委員会のみなさんと,
2kmの道を2時間かけて街を移動した
それから公民館で2時間の会議にも参加した.

この委員会が町づくりにどれほどの影響力があるのか不明瞭だったので,
黙って参加していたが,流れ的にボクにも発言の機会が回ってきた.
何を発言するか,よりもなぜ発言するのかを考えていた.

「歩道は雨水を車道に流すために,車道に向かって緩やかに傾いている.
そのため,坂道では上下に加えて左右方向への傾斜にも対応する必要がある.
杖歩行であれば複雑な足底からの感覚に適応する必要があり,
車いすでは車道に流れされないようにしながら坂道を移動する必要がある.
感覚や筋力が十分に働かない状態での環境への反応や適応は困難であり,
移動に関して一般人が思うよりも心身機能への配慮はデリケートである」

というような意見を市民代表者らがボクに求めていることは,空気でわかった.
それに対して予算を盾にして身構えている役所の方々の緊張も伝わった.

確かにその場でその発言をすることはボクに求められている役割ではあったが,
果たしてそれはボクにしかできない役割だろうかと考えていた.
tamuraさんは何のためにこの場にボクを招待したのか考えていた.
考え抜いた末に,ボクは発言した.

「町づくりは,何のためにするのですか.
誰を守るために,誰を育むために,計画しているのですか」

「路地裏でおばあさんの家に子供たちが集まっているのを,見ましたね.
道路を拡張してバリアフリーにするということは,
彼らの暮らす場所や集まって語り合う関係を,崩す可能性もあると思います.
それは町づくりが目指す未来から離れてしまうのではないかと心配です」

「確かに,道は広くて平坦で真っすぐであった方が,多くの人が楽です.
坂道は・・・・という理由で,とてもデリケートな問題を抱えています.
でも道はどこかで何かをするための,移動手段に必要な環境の1つです,
その道を使って人々は,どこに行くのでしょうか,
誰に会いに行くのでしょうか,誰と何をするのでしょうか」

「たとえバリアがあっても,おばあさんが買い物や孫と会えるように,
子供たちが友達と遊んだりおばあちゃんに会える方法があれば,
一番よい選択ではないかと思います.
もちろん,可能であればバリアフリーにした方がいいとは思います」

「市民代表のみなさんの意見に私は共感していますし,賛成です.
でも,限られた予算でやりくりする役所のみなさんの立場も理解しています.
このままだとお互いの意見は折り合わず,いつまで経っても平行線です.
それはお互いが望んだ形の過程や結末ではないと思います」

「いまここで,みなさんはそれぞれの立場から,
何のために,誰のために,市民のどんな生活をイメージしているのか,
話し合った方がイイと思います.方法論や手段ではなく,
目的と目標について話し合った方がいいと思います.
なぜなら,手段は違っても目的は一致しているハズだからです」

「あの路地裏のおばあさんと子供たちの未来を考えるなら,
何をするべきで,何が妥協できるか,話し合えるはずだと思います.
目標が明確であれば,効率的に効果的に実現に向けて,
協力し合って,強みを借り合って,未来を築くでしょう」

「以上が,作業療法士としての意見です」

後日,会議録が送られて来た時,すごい生意気で傲慢だなと思ったけど,
必要な発言しか選択していないなと思った・・・これも生意気か.

期待外れだという視線も感じだが,建築家や役所関係者や商工会の方は
何度もうなずいていたので,これで良かったのではないかと思う.
委員会はおそらく近いうちに解散するだろうし,(実際そうだった)
委員会の意見は町づくりに強い影響力は与えるか未だに不明瞭だと思う.

何年後か,あるいは10年後に,
町づくりを考える時に,作業療法士という人がこんな意見を持っていた,
と誰かが覚えていればいいなと思う.

その時はtamuraさんが関わることになるだろうし,
それが彼の望んでいる役割でもあり,強みでもあるだろう.
町づくりに関係する人と町で暮らす人々にとっても,
その方がより良い選択に近づくのではないかと思う.

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