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2014/06/06

意思疎通が困難なクライエントと作業療法

4年前に就職した時,同僚の作業療法士から業務の申し送りを受けた.
特養ホーム利用者100人と通所介護利用者60人をマッサージ師,看護師と担当し,
作業療法士が入所と通所を合わせて毎月約40人分の機能訓練計画書を作成していた.

しかも,評価用紙は介護保険管理ソフト,Excel,ファイルメーカーで各々作成し,
3ヶ月毎に特養ホーム入居者の家族に計画書と同意書を手渡しながら面談していた.
20分前後の面談が100件近く入るので,その月は面談以外の業務はできなかった.

その合間も160人に対して機能回復のための訓練をマンツーマンで求められていたので,
「・・・・もしかして,影分身の術が使えるタイプですか?」
というのが就職初日に伝えた彼女への感想だった.



1ヶ月後,家族面談に参加してわかったことがあった.
家族は多くが50〜60代だったが,
「利用者さんの趣味は何ですか?」と尋ねても答えられない人が多いということ.

「親は家事と育児で忙しい人だった.趣味をやっている姿をみたことがないし,
家を出てからは親が自宅で何をして過ごしているのかよくわからない」と答えた.
なるほどねと納得したが,記憶の引き出しを探せば何か見つかるはずだとも思っていた.

「おひさしぶりです,リハビリテーションを担当している作業療法士です.
前回からの変化について報告しますが,その前に教えて頂きたいことがあります.
私たちは機能訓練を実施しますが,目的と目標がわかるようにしたいと思っています.








意思疎通が可能な方なら一緒に目標を決めることもできるのですが,
難しい場合は私たちが知識と経験を基に考えます.
でも,どうしても画一的なレクや訓練になってしまいがちで,不安になってしまいます.
関節の広がりや筋力が維持できたとして,それだけで良いのかなとも思います」


「機能回復が難しい場合もありますし,
私たちが提供する訓練というのも非常に短い時間です.
心身の機能維持は私たちの成果というよりは介護士の働きによるものです.
意思疎通が困難な方でも全員,毎食必ず車いすに乗ってもらうのは,
時間とエネルギーがかなり必要です.

ベッド上で栄養を注入する病院が多いですし,特養でも珍しいことではありません.
車いすに乗る機会があるからこそ,
関節と筋力と意識が保たれていると私は思っています」

「オムツで対応できることをトイレに誘導することも,
胃瘻で済むことを本人の能力を引き出しながら食事介助することも同じです.
このことは,よく覚えておいてください」

「それで保たれた身体的な機能を使って,頻度は少ないかもしれませんが,
本人だけの生活や人生に関係する機会を提供したいと全員が思っているわけです.
たとえば,個人的に思い入れのある場所や人と再び関係する機会を,
離したくないと願っています.







その機会のための機能訓練をしている,ベッドから離れた生活支援をしている,
と思えれば,私たちも不安なく継続することができると思うのです」

「本人と家族の期待する生活が必ず一致するとは限らないです.
でも,私たちが考える本人の希望よりは近いだろうという判断です」

「ということで,利用者さんの趣味は何ですか?」
「イメージが難しい場合は,ADOCのイラストを確認してください」



来週から特養ホーム入居者家族との面談が始まる.
分身の術をまだ習得できていないので,活動の規模と回数を一時的に減らすけれど,
それだけの価値はあると期待している.ここから始まる支援があるハズ.



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