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2015/05/07

これから作業療法士になる君たちへ

楽しく,感動的で,微笑ましいことも,
長く,辛く,苦々しい思い出もあるよね
新しいスタートに不安と期待を抱えている君へ

専門教育と臨床実習を経て,やっと手に入れた卒業証書も,
真新しい国家試験の合格書も,白く新しいユニホームも,
それだけでは君を作業療法士にはしてくれない

完璧な作業療法士はいない
作業療法士とは何かを,すべて知っている人もいない
日々,作業療法を実践する中で成りつつあるもの



漠然とした不安を抱えていると,
すぐに役立つ知識と技術を求めたくなる
求めることは悪くないけれど,
不安が根本にあることは知って損はない

役所や営業職,外食業は異動のある総合職だが,
医療,福祉業界などで作業療法士が働く場合は,
専門職としての役割を期待されていることが多い

つまりオールラウンドプレイヤーではなく,
ある特定の領域において特化した能力を求められる
逆にいえば,当たり前だけど,できないこともある

それは知識,技術の課題かもしれないし,
時間や制度による制約かもしれない
すべての対象者のすべての時間,多様な問題や
あらゆる生活行為に関わることはできない



だからこそ,できないことを他人に説明する必要がある
何でもできると思いたいし,言いたいけれど,
どこかで線引きをした上だと認識しなければいけないし,
認めたくなければ業務を独りでしなくてはいけない

やってみればわかるけど成果は十分でなく,効率が悪い
組織やチームの存在意義を知らなければ,
自分の存在意義もしっかり見つめることはできない

そこで自分にできる役割を再考してみると,
職種の存在意義になる
自分の個人的な存在意義を合わせてみると,
自分が何がしたいんだって問いにたどり着く

だからこそ,個人的な長期的目標が重要になる
でも経験がなければ実現可能な目標は描くことができない
経験した内容によっても価値観は変わり続けてゆく


環境によっても,自分の経験によっても変わってゆくが,
不十分でも曖昧でも目標はイメージし続けた方がいい
イメージしようとするプロセスにこそ,価値がある

良いか,正しいか,立派であるかは問わない
あこがれたり,尊敬している人ではなく自分で決める
自分で決めたということが強い意志に育つ


ありのままの自分で描ける目標が見えるようになるのは,
ひとりの対象者になる

いまの自分が持っている知識と技術では力が足りないと感じ,
どうにかしようと,もがき苦しみながらも
目標に少しでも近づけた時に見えてくる

ほんとうは自分がどんな仕事をしたいと思っているのか,
少しずつみえるようになる
その日から作業療法士に成る道を歩み始める



不足はあっても,
君が日々に何を成すかで将来の君は,
いま成り立ちつつある

誰だって,今日を誇れるような仕事がしたい
毎日が感動的ではないけれど,
目標に向かっている一歩ならば大事だと思える


自分だけの悩みではないと知りつつ,
自分の悩みも軽く見ず大事にする過程こそが,
君が思う君へ近づく道


2015/04/23

介護保険制度改正で作業療法士は働きやすくなったはずだよね

遅れたけど,めがねOTさんtomoriくんに続いてリレー日記.
ゴルフには守るショートよりも攻めのオーバーという名言がある.
好きだけど,本文とは全く関係ありません.しかも未経験者です.



勉強して,挑戦して,いい結果が出たと思ったら,
同じ結果を残すために過程を振り返ってルールを探したい.
ルールに基づいた手順がマニュアルで,
ルールのメカニズムを明文化したものが理論(セオリー)になる.

理論を偶然や経験論,思いつきに依存せず,
信頼性と再現性の高めるため試行錯誤することを研究と呼ぶ.
研究を重ねて精度の高くなった理論に基づくマニュアルができた時,
より多くの人に使ってもらいたいと思うはず.
最も効果的で効率的な手段が,制度だと思う.

制度とは間違いが少ないことを期待されたマニュアルだが,
マニュアルを使う人と環境のことを,どこまで大目に見るかが難しい.
厳密に規定すると使える人は少なくなり,
規定を緩和しすぎるとマニュアルを作成した意味を失ってしまう.
認定看護師制度は優れているなとつくづく思う.

こういう視点で読み取れば,保険情報もドラマがあって面白い.



回復期リハ病棟が始まった10年以上前に,聞いた話がある.
「病棟にプラットホームを置いて骨盤の緊張を整える治療をやれば,
回復期リハ病棟加算を取れるよ.やることは訓練室と同じだよ」

「クリティカルパスの通りに動く義務があるから,
歩行できる人もベッド上で端座位保持の訓練をしているよ.
パスを作成した医者に気を遣わないといけないからね」

別の職場で働いているけど好きな先輩だったので思わず,
「職場を辞めるか,仕事を辞めるか.どっちか今すぐ選べ」
と言った自分が無礼で恥ずかしい.・・・と今なら少し思う.



生活行為向上という言葉が制度に採用され,
作業療法士が本来の業務に従事せざるえないシステムは,
日本OT協会の戦略と戦術がもたらした歴史的な改革だと思う.

揉み揉み,ホットパック,歩行=リハビリという偏った価値観の中で,
「目標なんて要らない,高齢者は触ってもらことが生きがいなの!」
と言われたことのある人なら歓声を上げたいと思うけれど,
経験知が警鐘を鳴らす.


加算を取れと言われて重圧を感じるセラピストに配慮しよう
と,すでに厚生労働省の議事録にも記載されている.
何をすればいいかわからない人たちがいる,とも読み取れる.

それはOTではない人の悩みかもしれない.
特養や通所介護の機能訓練員は看護師が7割以上を占めるし,
病院で働いた経験の長いPTは戸惑うかもしれない.

歩行訓練とマッサージと集団体操がリハビリと認識していれば,
社会参加レベルの支援を理解できない可能性がある.
まぁ,支援目標を社会参加にするのは職種に関係ないけれど.

そんな人たちは規定の講習会を受ければ加算を請求できると,
講習会に居眠りしながら参加し,以前と同じ仕事をするかもしれない.
監査で言い逃れる言葉を使って記録することに時間を費やすだろう.
防ぐためにはルールを厳しくするしかないのだけど,
使える人がいなくなってしまうという議論に戻ってしまう.



・・・遠回し過ぎて道が外れていきそうなので率直に言う.
作業療法士はこの機会をチャンスと読み取るか,
ピンチと感じるかは個人の勝手だし,他人が関与することではない.

チャンスだと感じている人だけに相談したい.
今ここで結果を残さないと次の改定の時に,
「目的は機能維持で,現実的に達成できない目標の支援をまだやってる?
君らは生活習慣や生きがいを支援できないんだね.他を当たるよ」
と言われることは確実.今動かなきゃ.できるだけ多くの仲間と一緒に.

同業者に気を遣いすぎてやらなくて後悔するよりも,
対象者にのめり込んでやり過ぎて怒られた方がいいよ.
準備してもらったコースは結果を残さなきゃ消える可能性があるから,
守るショートよりも攻めるオーバーですよ.


2015/02/11

第二回 日本臨床作業療法学会 学術大会 振り返り

翌日,優秀賞状の名前をクライエントに書き換え,
クライエントと職員のために授賞式を開いたと連絡がありました.
彼女はその場に彼らがいるつもりで事例報告をしたそうです.

自分に何ができるか確認するため仲間の話を聞き取り,
地域で暮らす人や自分の家族や担当しているクライエントの話を,
泣きながら朝方まで語り合ったとメールがありました.

家族のため地域の活動団体に思い切って参加した,
研究や作業療法の理論に関する本を購入して読み込んだ,
意思疎通が難しいと思っていたクライエントに踏み込んだ面接ができた,
あなたの発表を聴きてみたいとクライエントが話してくれた,
と電話やメールをたった1日でいくつも受け取りました.

出勤すると,大会に参加した学生が作業に焦点を当てた面接評価をして,
実場面の活動ができる環境を提供し,観察結果を元に丁寧な機能評価を実施し,
目標を実現するために必要な治療と支援の戦略を議論していました.
3人の学生が同時にです.


今大会は演者が参加優先の,移動不可型な分科会システムを導入しました.
質的研究に関心がある人,量的研究の経験がある人,管理運営が得意な人,
プレゼンテーションが上手い人,研究会作りに長けた人,面接スキルが高い人.
それぞれの強みを活かして貢献し合う関係作りを促すためでした.

当学術大会の存在価値はテーマや内容に独自性と創造性があり,
作業に焦点を当てた実践の発展に貢献する研究の共有です.
今回の経験を通して学術性における課題が明確にわかりましたが,
団体として次のステップに上がる時期であることを示唆していると解釈しました.

第二回大会の目標は,第三回大会に見据えていました.
今回の経験と関係が価値のあるものだったかは,1年後にわかるでしょう.
目標に向けて私たち学術団体も,参加者と共に前進し続けたく思います.



悩みながらも大会で演題発表をしていただいた皆さま,
すべてを受け入れて快くファシリテーターを引き受けていただいた皆さま,
多忙な中で1年間に渡って運営の手助けと助言をいただいた学会理事の皆さま,
深く感謝の気持ちを申し上げます.

そして,運営会議は1回のみ開催と決め,メール会議のみという強行を許し,
マンワンで自由でだらしない私を見守っていただいた運営委員の皆さま,
ほんとうにたくさんの心配と苦労をかけました,心より感謝を申し上げます.

メンバーは過去の研修会参加者リストと学会抄録を読んで私が選出したので,
ほとんどが大会当日に初対面となり,混乱や戸惑いもあったと思います.
共に未来を創りたいと思えるメンバーであることを再確認できました.



最後に講演スライドの一部を引用して,大会の振り返りとして記録します.






あなたが望むなら,彼らを肯定してください.
そして彼らのため,自分に何ができるのかを考えてください.
あなたにしかできない支援を探し,行動を起こしてください.






あなたの行動が変われば,
環境と人は互いに影響を与えながら,変わり続けていきます.
それは作業療法の理論が示しています.

変わるはずがないと思っても,
まずやってみてください.
変えられると気づくことが,他の何よりも大事です.






同じ価値観と行動を経験をした人たちと共に,
新しい当たり前を創るという目標.

作業と環境を変えれば,
あなたと私たちは必ず
変わることができます.




ありがとうございました.

2014/12/26

2015年1月11日 特講:その人らしさを取り戻すリハビリテーション in 和歌山

和歌山クリニカルリハビリテーション研究会

今回,友利さんが作業についての理論とエビデンスについて講義をします.
その後,ボクは実践について講義をしますが,メインはその後にあります.
和歌山の寺下病院に勤める若手,沖田直子さんと坂井優介さんの事例報告です.

友利さんと6ヶ月かけて介入をサポートしましたが,ボクらが助言したことは3つです.
「OTはどうしたいのか」,「どうすればできると思うのか」,「イイね!」
経験年数に関係なく私たちに意志があれば,
自分にも環境にも変化を起こせることがわかると思います.

今年は作業で語る事例報告が発売されました。
おかげさまで2回目の増刷になりそうです。
事例を書いているのは20〜30代の作業療法士です。

日本臨床作業療法学会が発起した年でもありました。
第二回大会は沖縄で開催されますが、演者の多くは若手です.
誰でも参加できる一般申し込みは12月31日が締め切りです.

学会申し込みはこちら

講習会や学会に参加して体験することは手段です.
目的は自分と社会のためにできる目標を探し,
目標に近づくためのルート確保ができることです.




和歌山の講義でボクが予定している事例報告メニューを紹介します.

①急性期から回復期(COPM,カナダ作業遂行モデル,上肢機能訓練)
交通事故によって遷延性意識障害と診断された児童の地域生活に向けて,母親へ面接して目標設定した事例

一生寝たきりだから施設に入れなさいと医師に言われた事例が,6ヶ月後には自宅に帰ってスプーンを使って自分でご飯を食べれるようになりました.それ以上の成果は,家族がこれから先に何があっても不安なく生活を共に送れると話したことです.私の人生を変えた事例です.

②回復期(作業科学,役割再獲得モデル,家族支援)
重度の遷延性意識障害が残存したクライエントが母親としての役割再獲得できるよう,家族による外出支援を実践した回復期リハ病棟の事例

回復期リハ病棟で最後に担当し,NSTとシーティングの技術で作業的存在に近づけたと思われる事例です.毎週,介護タクシーを使ってスタバで家族と嚥下訓練を繰り返し,10週間後には自宅への外出練習で家族が作ったご飯を食べることができました。

③通所リハビリテーション(OSA-Ⅱ,AMPS,人間作業モデル)
発症から7年が経過した片麻痺事例の主婦役割再獲得に向けた支援

週に1回だけ勤めていた通所リハで,介入して3ヶ月後にOSA-ⅡとAMPSが向上した事例です.車いすの生活は変わりませんでしたが,「あきらめていた役割を取り戻せた」と涙目で語っていました.作業遂行レベルが変化すると環境からの期待も変わります.

④通所介護(ADOC,作業科学,就労支援)
15年ぶりに仕事を再獲得できたと感じれることを目標にした通所介護の支援

週に1〜2回の介入で3ヶ月後に本人が選択した作業の満足度が向上した事例です.重度の失語症と運動麻痺は残存していましたが,事例にとって大事な作業を共に発掘できました.支援することが必然的に決まっていく過程にこそ,作業療法らしさがあります.

⑤特養ホーム(ADOC,訓練計画書作成,チーム連携)
入居から10年が経過したクライエントに対する価値ある役割再体験の支援

いわゆる10年おでんです.動画はよく流しますが,評価から介入までの過程はあまり報告したことがありません.これは同僚の介入で、介護保険サービスにおいてチームと連携して作業療法を実践するためのヒントが得られると思います.

⑥特養ホーム(ADOC,認知行動療法,家族連携)
無断離棟を繰り返す認知症高齢者の役割再獲得に向けた支援

こちらも同僚の介入で,問題行動と呼ばれている行為の意味と目的を丁寧に探って計画的に支援した事例です.特養ホームは長期的に関わるため作業遂行レベルが低下する場合も多く,作業療法の成果は何をもって測るのかと悩む時にいつも思い出します.


近畿地方のみなさんと共に作業療法を模索できる機会が今から楽しみです.