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2012/01/28

NICUのOTプロセス

ADOC(作業選択意思決定支援ソフト)の小児版を開発するプロジェクトが着々と進行している。ボクは作業療法士として児童と関わった経験がほとんどない。中心メンバーは現役の学校、地域、施設で活躍しているOT(作業療法士)の方々なので、期待に胸を膨らませて応援している。



ボクがはじめてCOPM(カナダ作業遂行測定)を使用したのは回復期リハ病棟に勤めていた頃で、交通事故による後遺症で遷延性意識障害(いわゆる植物状態)児の母親だった。その時からクライエント中心あるいは協業の作業療法について考えること、実践することが始まった。それから3年後に病院で最後にCOPMを使って支援したのは、NICU(新生児集中治療室)に入院する乳児の母親だった。その時、ボクは20代後半で娘が1歳だった。

当時、48床の病棟に専属のOTは1名で、担当は15名前後だった。診療報酬は請求しない条件下で、乳児に介入してくれと上司から依頼があったので引き受けた。


生後すぐに現れるはずの、吸てつ反射が消失していた。つまり、乳児は母乳が吸えなかった。まず、乳児には触れず母親との面接に1時間費やした。医師からどのように説明を受けているか、退院後に自宅で暮らす時にできるようにしたいことは何か、ゆっくり確認をした。目標をはじめに明確化することが最優先だと思っていた。

その後、発達障がい児への治療、支援の経験が豊富な他施設のOTに助けを求めた。NICUの中で嚥下訓練をベテランOTから母親と一緒に手取り足取り教えてもらいながら、その様子をビデオ撮影して母親に渡した。NICUに入院できる期間はごく限られていた。救急の必要がないと判断されたら即退院しなければいけないと調べて知った。




「退院後、あなたとお子さんに私が今と同じように支援することは難しいと思います。もちろん、勤務外ではあれば可能ですが、あなたも気を遣うでしょうし、私も十分に応えきれない時があるかもしれません。お子さんへの支援が継続的に必要な状態であれば、あなたがあらゆる状況に対応できるようになった方がいいと私は思います。それは訓練手技を極めるという意味ではなく、特定の課題に対応できる専門家に相談や依頼ができる能力を育む、などの意味です」


「そのためには、まず何が課題と考えているのか、何ができるようになった時に課題は解決できたと思うのかを、書き出してみましょう。判断のために必要な病気の情報提供は、私からも医師に依頼します。ケアについては看護師に依頼します。はじめての出産、初めての支援で混乱していることは想像しているつもりです。でも、この子が自分で意思決定できるまでの期間は、あなたが代理で選択した方がいいと思います」


「まず、退院後すぐの生活のこと、1ヶ月後、3ヶ月後のことを考えてみましょう。生まれつきの反射のことだけはなく、あなたや旦那さんや親御さんなど関係者の、子供と関わる時間外も含めた生活全般のことをイメージして、何が必要なのか一緒に考えてみましょう。イメージを見えるようにするために、ボクはまず外泊を勧めます。NICUは外泊ができないようなので、23時間の外出なら可能かもしれません。それから課題を明確化してもいいと思います。できるようになりたいことの優先順位を決め、それぞれの満足度を教えてください」


「嚥下訓練に没頭する、退院した後は地域の専門家に委ねる、という選択肢がボクにもありますが、ボクは作業療法士なので、この目標を決める過程がとても大事だと思っています」




この態度には問題があったかもしれないし、過剰なことや不足していることがあったかもしれない。その時もそう思っていて、不安でよく夜中に目覚めた。でも、もし再び同じ機会に巡り会うことがあったなら、やはり同じような目標を目指し、同じような経過を辿るんじゃないかと思う。もし、ADOCの小児版があったら、どうなったんだろうと最近は眠る前に思い出す。

2 件のコメント:

  1. このアプローチは、患児やそのご両親にとって大変必要で有効なものだったと、感じました。

    >この目標を決める過程がとても大事だと思っています

    まさしく、OTならではのアプローチだと思います。

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  2. ありがとうございます。
    良かったかどうかを確かめるために、退院後も定期的に連絡を取ってました。
    三ヶ月後に、これで良かったと互いに確認できました。苦しかったですが、おかげで成長しました。

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