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2010/12/25

10年おでん Oden's 10 years

ミケランジェロは彫刻について、
「石の中には、すでにあるべき姿がある。
私は、ただそれを取り出すだけ」
と言ったらしい。


彼女は特養ホームに入居して、ちょうど10年の年月を過ごした。
車いすを自走してホールまで出てくる。
が、そこで時間を持て余しているように見えた。
同僚が彼女にADOCを使用してインタビューをした。

おでん屋の女将だったことは、みんな知っていた。でも、
レクリエーションやADLよりも大切なことが、
「おでんを作りたい」だったとは、みんな知らなかった。
知っていたとしても、これまで支援計画には反映されなかった。
同僚はカンファレンスでADOCで確認した大切な作業と、
それにまつわるエピソードをチームと共有した。

それじゃあ、おでん屋を復活しようという流れになったらしい。
集団調理という活動は過去にも行われたことはあったらしいが、
1人のために調理ができる環境を提供する前例が、
施設には12年間なかったそうだ。
それでも順調に計画が展開していったのは、理由があると思う。


調理という活動ではなく、
特養ホーム入居者女性というプロフィールではなく、
おでん屋の女将だった自分を今も大切にしているエピソード。
組織変革を図る技術や知識よりも、
変化を起こす力があるんじゃないかなと思った。

クライエントが中心に立っていれば、
必要な物、人、空間、時間は必然的に決まってくる。
しかも、譲ってもいいこと、譲れないことを尊重できる。

ADOCによって料理がしたかったことを確認できた別の女性入居者にも
事情を説明して参加してもらった。
他にも4人の元主婦、元商売人の入居者に手伝ってもらって、
おでん屋が開店した。






彼女が施設内に設けられた店頭に車いすに座って職員に販売した。
施設長のコップにノンアルコールビールを注ぐ彼女の顔に、
控えめな誇りが見えた。気がした。
にじむ涙は気のせいではなかったと思う。


それは12月9日、2週間前のこと。
今日、12月25日に再評価をした。

活動の項目は「炊事」
コメント欄にしっかり「おでんを作りたい」と記録。
満足度は1点から3点に変化。






「もう無理だと、あきらめていたが、
やってみて,思ったよりはできるんだなと思った。
そしたら、もっと上手くやりたいと思うようになったさ」


彼女の体重、関節可動域、筋力、ADL介助量は変化していない。
彼女が選んだ、意味と目的のある作業に対する満足度だけが、変わった。


それでいいじゃないか、と思う。

それがいいじゃないか、と思う。


10年間煮込まれていた、やりたいこと。
大根に、足てびちに、昆布に、深いところで染み込む。

彼女に必要な支援は作ったのではなく、
彼女の中にこそあった。

ADOC(作業選択意思決定支援ソフト)

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2 件のコメント:

  1. クリスマスの夜にステキな作業療法に出会えてよかったです。
    クライエントに中にある輝きを見つめて、それを実現するための支援を行う。クライエント中心の介入に感動しました。クライエントが発信してくれる沢山のエピソードも、介入時のコミュニケーションの材料くらいにしか使われないことって多いです。でもその中には輝きを取り戻すためのヒントが沢山ありますよね!ADOCというツールを介することで、クライエントが自分の大切な作業にもう一度向き合い、その輝きが取り組むべき課題として他職種にも認識されて、そしてエネルギーとなって実現に向かう歩みとなる。クライエントも、OTも、他職種のみなさんも、みんながクライエントの中に元々あった”あるべき姿”を大切に思えたからこそ達成できた作業ですね!こんな協業をしたいと思いました。素晴らしいクリスマスプレゼントを有難うございます。

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  2. samuraiOTさん,熱いメッセージをありがとうございます.このストーリーは同僚が展開してくれた作業療法です.ボクも感動を分け与えてくれた彼女に感謝しています.そうなんですよ,クライエントが語ったエピソードも聞き流してしまったり,チームと一緒に向き合う機会を逃がしてしまうことってあると思うんです.ADOCを使用してインタビューするプロセスには,クライエントとOT自身に対して,OTの役割を訴えるメッセージが生じると思います.だからこそ,話が深まるし,広がっていくし,チームにも伝えることができると思うんです.それは侍OTさんのブログを読んで確信したことです.こちらこそ,いつも温かく熱いストーリーをありがとうございます.求めている人がいる限り,怯まず臆さず進みましょう.感謝.

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